野草採りのはずが川遊びに
「ご主人様川がある~」
「お魚もいるのです」
「おお、どれどれ~」
確かに二人の言う通り川の中には魚が泳いでいるが、外敵がいないのか、川のサイズに対してかなり大振りだ。
「チセさん、これは食べられるのでしょうか」
「ええ、可能です。しかし捕獲用の道具を持ってきていないので」
「道具?」
「なんなの~それ?」
「えっ」
僕とチセは同時に首を傾げた。確かに僕も子供頃川魚を素手で捕まえようとしたことはあったが、結果としてうまくはいかなかった。水という彼らのテリトリーの中では人間の反射速度など何の役にも立たない。それに意外と湿った魚というのは滑りやすいのだ。
「もしかして、捕まえられるの」
「もちろんなのです」
「えっ・・・」
まあとりあえずお手並み拝見ということで、二人に捕まえてみるように言ってみた。すると二人はすぐに川に入り泳いでいる魚の一匹に狙いをつけた。てっきり無邪気に飛びついて捕まえるのかと思っていたが、以外にも二人にはじりじりと歩みを進めながら、魚を大きな岩に追い詰めるというなんとも戦術的な動きを見せた。
「ダイブプリーズ~」
「あいなのです」
クイネが思い切り水に飛び込むと、驚き魚が飛び上がった。そして一度岩場に落ちたところをコチカが爪を立てて捕まえた。
「うまくいったのです」
「成功~」
「す、すごい」
まさか一発で成功するとは思っていなかったので、僕とチセは二人の連携をただぽかんと見ていた。
「ご主人様~これ入れたい~」
「ああ、うん」
チセの言う通り入れ物など持っていなかったので、僕がとった野草をチセの籠に移し、空いた僕の籠に魚を入れることにした。
「二人とも、あんまり濡れると風邪をひくよ」
まあ風邪をひいてもすぐそこに病院があるんだけど、と思いつつもこれ以上トクシンさんに迷惑をかけるのは悪いので、できるだけ濡れないようにしてもらいたいところだが、二人はそんなことお構いなしに、もう次の獲物に目星をつけていた。
「あー、こうなると止まらないかもです」
「そうですか、では私たちでこの付近の野草を採りましょう」
「はい」
コチカとクイネのはしゃぎ声を聞きながら僕とチセは淡々と草むしりを続けていた。正直少し楽しそうだなと思いながら。僕らは淡々と作業を続けた。しかしあまりにも沈黙が続きすぎて僕の方が根を上げた。
「チセさんは、いつからトクシンさんのもとに」
何となく会話の糸口になればいいかなと思い、チセに尋ねる。しかし等の彼女は一切手を止めることはなかった。
「はっきりとは覚えていません。ご存じの通り私は師匠の実子ではありません。のちに教えてもらったのですが。私は山道の入り口に捨て置かれていたそうです」
「ごめんなさい、嫌なことを思い出させてしまって」
「いえ、私自身もそう伝え聞いただけですので、はっきりとは覚えていないんです。でもそれからは師匠のもとで医学と薬学を学びながら過ごしています」
確かに僕らのお世話をしている以外の時間は何をしているのだろうと気になってはいたが、彼女は年相応にしっかりと勉強にいそしんでいた。とは言えレベルがだいぶ高いのは気になるところだった。
「てことは実際に薬の調合や手当なんかもやってるんですか」
「はい、流石に大規模な手術の経験はありませんが、それなりにたくさんの症例を経験させていただきました」
「感謝してるんですね」
「はい、あの方には一生をかけて恩を返していきたいと思っています」
「いいお父さんですね」
「先ほどもお伝えしたはずですが、私と師匠には血のつながりはありません」
チセとは背中合わせで話しているので、顔は見えないそれでもわずかに彼女の肩から力が抜けた。
「ですが・・・そのお言葉はありがたく受けっておきます」
心なしか、チセがわずかにほほ笑んだような気がした。




