待つ間に縁側で
ツレヒト達が野草採りに勤しんでいる一方でヴァルフは、縁側に座っていた。まだ短い距離しか移動できないが、それでもずっと室内にいては気が滅入ってしまうだろうとトクシンが気を利かせたおかげで久しぶりに外の空気を吸うことができた。
山の空気は地上のそれと比べて少し冷たいが、それでも今のヴァルフにとっては適温であった。
「どうですか、久しぶりの外は」
「ええ、とっても気持ちいいです。しかし」
妙に静かだとヴァルフは思っていた。
「それはきっと皆さんがいないせいですね。野草の採取をお願いしたので、今ここにいるのは私とあなただけです」
「そうですか」
確かに耳を澄ませても彼の他に人の気配は一切しない。
「せっかくの機会なので、いくつかお伺いしたいことがあるのですがよろしいですか」
「ええ、どうぞ」
彼にはここまで丁寧に治療してもらった恩があるので、答えられることならとヴァルフは了承した。
「聞きたいことというのはヴァルフさんの主人、ツレヒト様についてです。彼はどのような青年なのでしょうか?」
「・・・」
ヴァルフは少しだけ言葉を詰まらせた。というのもまだ出会って一週間もたっていない。なので知っていることは非常に少ない。その中から彼の人物像を組み立てろというのは非常に難しい気がする。だがヴァルフはたった一つだけ確かにこれだけは言えるということがあった。
「私も戦闘に敗れ、捕虜にされてから何人もの奴隷商人のところを転々としてきましたが。ツレヒト様とほかの奴隷商人とでは決定的に違う点があります」
「ほう、それは」
「あの人は私たちの願いを尊んでくださるのです。本来奴隷商人とは、人の願いをかなえるため私たち獣人の命を道具や商品として扱います。しかしあの人は全くの逆なのです。私たちの願いをかなえるために自らの命を差し出してしまう。そんなお方なのです」
「それは、それは」
「だからこそ、時折思うのです。あの方の願いは何なのだろうと。今我々は私と、コチカとクイネ、二人の子供たちの故郷を目指して旅をしております。もし、仮にですが、その旅が成就した先、ツレヒト様はどのように生きていくおつもりなのか、それが分からないのです」
と言ってもまだかなり先の話なのですけど、と付け加えたが。この問題を先延ばしにするのはかなり危険なことであるとヴァルフは思っていた。
「おっしゃりたいことはよくわかります。あの人はあなたをここに担いできてからずっと、貴方の怪我はすべて自分のせいだとよくおっしゃっておりましたから」
「やはりそうでしたか」
「ええ、何度も。彼はきっと他人の痛みを自分のこと以上に感じ取ってしまう。そしてそれによって知らず知らずのうちに自らを傷つけてしまう。そんな危うさがあります。だからこそあなたの様に彼の痛みと優しさを肯定してくれるそんな人物の存在が必要なのかもしれません」
「・・・私にその役目が務まりますでしょうか」
「無理に役に準ずる必要はありません。あなたは常に彼の側にいてあげればよいのです。ただそれだけで彼は救われるはずです」
「そう・・・でしょうか」
「ええ、年寄が言うのですから確かです」
パッと見ただけでも自分の三倍は人生経験が多くあるトクシンの言葉はヴァルフの心に一切の摩擦なく入っていく。
「さて、そろそろ薬の時間ですので中に戻りましょうか。大丈夫です、またすぐに出られるようになりますよ」
「わかりました」
事前にトクシンさんから借りていた移動用の松葉杖を両脇に挟み、ヴァルフはゆっくりと寝床に戻った。
一方その頃野草採りに出かけた僕たちは暴走するコチカとクイネを追いかけて走っているうちに、小さな川を見つけていた。




