ヴァルフのために野草を採ろう
翌日になって僕はあまりいい目覚めはできなかった。それは昨日トクシンさんからなされた難題のことがずっと気になってろくに眠れなかったからだ。
そんな僕に反して子供たちはヴァルフに会えたことで元の元気を取り戻し、今にも部屋を駆けずり回らんとする勢いだった。
「皆さま、よく眠れましたかな」
そんな僕らを見かねてトクシンさんがある提案を持ちかけた。
「実は、本日のお食事の材料と、ヴァルフさんのお薬に使う薬草が少々不足しております。そこで皆様にチセと一緒にその薬草と野草の採取に向かっていただきたいのですが、いかがですか?」
「草を採るのです?」
「そう、獣人の皆様の五感は人族のそれよりもはるかに優れていると聞きます。なのでその力をどうぞお貸しいただけないでしょうか」
「お姉ちゃんのため」
「やる~」
「ありがとうございます」
二人はすっかりと乗り気になっていたので、当然僕だけがここに残るなんてことは選択肢になく、持ってきた荷物の中から山の中を歩くのに必要そうなものを取り出し、二人に身に着けさせた。
「詳しいことはチセから聞いてください。それでは私は一度ヴァルフさんの治療に戻りますので」
「はい、ありがとうございます」
一通り自分たちの身支度を終え庭に出ると、大きめの籠を背負ったチセが待っていた。
「お待ちしておりました。本日はありがとうございます」
「いいんですよ。泊めていただいているので僕らもできることをしないと」
「そうですか・・・ところで」
チセは準備万端な僕を見たのち疑問を呈した。
「奴隷商人様も赴かれるのですか」
「ええ、足手まといになるかもしれませんが、この子たちのことも心配なので、それに人手は多い方がいいでしょう?」
「いえ、そうではなく」
どうやらチセは僕らのことについて一応トクシンさんから聞いているらしく、その上で彼女たちの主人である僕も一緒に作業することに疑問を抱いているようだ。
「一応彼女たちの主人ってことになってますが、あくまで便宜上と言いますか、その方が何かと都合が良いみたいなので、なので僕らの間に奴隷とか主人とかそういう身分? みたいなのはありません」
「・・・そうでしたか、大変失礼いたしました」
「いいえ、むしろ変わっているのは僕らの方なので」
そう言いながらコチカとクイネの頭を撫でてあげると、機嫌がいいおかげか二人は気持ちよさそうに撫でられてくれた。
「では参りましょうか、ここから少し歩きますが、そう遠くはありませんので、私について来てください」
「「はい」」
子供たちの元気な返事と共に僕らは出発した。道中山に慣れているチセと基礎的な運動能力で僕を上回る子供たちはすいすい進んでいった。僕もそれになんとか食らいつきながらも、何度か転びそうになった。そのたびに子供たちに助けられていた。
「ご主人様大丈夫~?」
「ありがとうコチカ」
「オッケイオッケイ」
「いったいどこで覚えたのその言葉」
「忘れた~」
「皆さまそろそろです」
チセが指さす先は、木々がなく、やや開けた場所だった。そこには木の代わりに様々な種類の野草が生えていた。
「今回皆さまに探してもらうのはこちらです」
チセが取り出した見本を僕はじっと眺め、コチカとクイネは匂いを嗅いだ。
「日が傾きだしたあたりで引き上げようと思いますので、それまでの間あまり散らばりすぎないよう気を付けながら散策していきましょう」
「はい」
チセからのゴーサインが出たとたんコチカとクイネの二人は一目散に走りだした。これまでずっと馬車の中や、家の中にいたせいでフラストレーションがたまっていたのだろう。一応言いつけを守り目の届く範囲にいるので、良しとすることにした。
「では、ツレヒト様は私と一緒に探しましょう」
「わかりました。お願いします」
かくして僕らは野草採りを開始した。




