僕らの絆について
「それは一体どういうことですか」
あまりにも唐突な申し入れにやっとのことで正気に戻った僕はトクシンさんを問い詰めた
「言葉の通りの意味です。チセをあなたの奴隷としてこの山から連れ出してほしいのです」
「いや、意味は分かりますが、どうしてそんな」
言わなくても想像はつく。しかしほんの数日前にあった奴隷商人に自分の大事な人を預けるなんて、狂気としか言いようがない。
「おっしゃりたいことはわかります。ですが昼のあれを見て私は確信しました。あなたならきっとあの子を悪いようにはしないでしょう」
確かにチセだけじゃなく、ほかの皆にも奴隷として無理な労働をさせるつもりなど毛頭ない。しかし僕についてきたからと言って安全が保障されることはない。
「私が診察した中には奴隷商人もいましたし、彼らから奴隷を買ったお金持ちの人もいました。でもその誰もが奴隷として連れて来ていた獣人を人として、いえそもそも生物として扱おうとはしなかった。一応彼らにも休むところをと寝床を準備したのですが、『奴隷など地べたで寝かせておけばいいのだ』と言われて片付けさせられてしまった。私はそれをただ黙って見ていることはできなかった。だからせめてもとごみを捨てると称して焚火を起こしたり、腐った食べ物だと嘘をついて食事を出したりなどしていましたが、それでもここからもといた場所へ帰るときのあの人たちの悲しそうな目が今でも忘れられない」
王都の路上ならまだ食べ物や雨風をしのげそうな場所の確保もできなくはないだろう。しかしこんな山奥ではひとたび雨が降ればそれをもろに受けることになる。もしそんなことになっても、他の奴隷商人や貴族たちは全く心が痛まないのであろう。
「ですがあなた様は違いました。彼女たちと対等に接し何より本心から彼女の身を案じた。昼間に見せていただいたものはツレヒト様とヴァルフ様の確かな絆によるものでした」
「もしかして奴隷商人の魔法について何かご存じなのですか」
「いいえ、前にも申し上げた通り私は魔法に関してはからっきしでございます。ですので先ほど申し上げたことはあくまでただの感想でございます。ですがあの魔法を抜きにしても、お二人の間にはすでに種族の垣根を超えた強い絆があった」
「・・・」
実際僕はヴァルフのことを強くて頼りがいがあって優しいお姉さんのようだと思っているが、彼女が僕のことをどう思っているのか言われてみればしっかりと聞いたことなんてなかった。
「もしかすると、あなたのような人がこの社会になにかいい影響をもたらしてくれるのかもしれない。私はそう思いました」
「そんな、買いかぶりすぎです」
「今は、確かにそうかもしれません。ですがツレヒト様もお連れの皆さまもまだまだお若い、まだまだこれから先自らの手で未来を切り開いていける。そんな可能性を秘めている。ですので安心して前へとお進みください。そしてあなた様の進む先がどうであれ、必ずあの子の力が役に立つ時が来る。そう信じています」
人の子を預かるというあまりにも重い責任。コチカとクイネの時には考えもしなかったが、よくよく考えればすぐにわかったことだ。でもずっと目の前の使命にとらわれ、目を背けていた。トクシンさんに諭すように言われた今ようやくそのことに気がついた。
「・・・少しだけ考えさせてください」
「もちろんです。ほかの皆様ともよくよく相談してお決めになってください」
それではとトクシンさんはゆっくりと立ち上がると、ふらふらと自身の寝室のほうへと歩いていった。僕はというと残された難題を目の前に一人頭を抱えていた。




