特別な力
改めて、ヴァルフの顔をはっきりと見ても、見えるのは包帯ばかりでその原因を僕が作ったと思うと、途端に申し訳なく思う。
「ツレヒト様余計なことは考えないように」
「は、はい」
どうやら見透かされていたようで、僕はきょとんとした。
「では、ツレヒト様あなたはヴァルフ様に何を望みますか」
「彼女に元気になってほしい」
「なるほど、ではヴァルフ様あなたはツレヒト様に何を望みますか」
「私は何も望みません。ただツレヒト様がこれ以上自身を責めなくていいように、この体を一刻も早く回復させたいです」
「では、お二人とも先ほど口にしたことを今度は心で願ってください」
僕らはトクシンさんに言われた通り先ほど口にしたことを念じながら、強く互いの手を握った。
突如僕の身体の中心から、小さなエネルギーの塊がバチバチとはじけながら生まれていった。そしてそれはゆっくりと血管を通じて腕に運ばれ、そこからさらに手を通じてヴァルフの中へと流れていった。それは間違いなく、あの洞窟で感じたあの感覚だった。
「ご主人様、身体が少しだけ動かせるようになりました」
ヴァルフは目を開き、うれしそうな様子で肩をほんの少し持ち上げて見せた。
「本当!!」
「はい、やはりご主人様は特別な力をお持ちなのです」
「そっか、そうなんだ」
ほんの少しでもヴァルフの献身に対して、何か報いる事ができたことが何よりもうれしかった。
「お二人ともまだ油断は禁物にございます」
トクシンさんがヴァルフの前に座りなおすと、彼女の腕を数か所触れた。
「なるほど、確かにいくつかの骨がつながっているようでございますが、しかしまだ正常とはいいがたいですね。薬が効いていなければ今頃は強い痛みにさいなまれていたことでしょう」
「ご、ごめんなさい」
奇跡のようなことが起こったことで二人とも舞い上がってしまい、ついついしてはいけないことをしてしまい、しゅんとなってしまった。
「とはいえ、私も貴重なものを見させていただきました。もっと時間があればゆっくりとこのことについて研究したいのですが、あいにくそういうわけにはいきませんので、今日はここまでにしておきましょう。ヴァルフ様ももうお休みください」
「今は、眠ることが一番の回復への近道というわけですね」
「はい、その通りです」
トクシンさんは薬棚から、薬包を取り出し、その中身をヴァルフに水と共に飲ませた。
「ご主人様・・・それではおやすみなさい」
「うん、おやすみなさいヴァルフ」
僕は一歩前に出て、彼女の背中を支えながら、ゆっくりと布団に寝かせた。
「それと最後に」
「何だい」
「この鶴、ありがとうございました。見ていると胸がいっぱいになります」
「喜んでくれて、よかった。二人にも伝えておくよ」
「お願いします」
ヴァルフはゆっくりと瞳を閉じ、そしてそのまま微動だにしなくなった。だが彼女の寝息をとても穏やかで聞いているだけで自然と安心感が湧いてくる。
「それでは、本日の面会はこれまでとなります」
「明日も来ることはできますか」
「はっきりしたことは申し上げられませんが、すぐには無理でしょう。少なくとも一日は体力の回復のための時間が必要になります」
「わかりました。あの子たちにも伝えます」
「お願いします」
僕はできるだけ静かに、病室から出ていこうとした。しかしそんな僕をトクシンさんが呼び止めた。
「ツレヒト様」
「はい」
「あなたは本当にお優しい方だ」
「いいえ、そんなことは」
「きっとこの方はあなたに仕えられて幸運だったでしょう」
「いつか、本当にそうなるよう努力します」
「陰ながら応援しております」
僕は彼の言葉に会釈で答えて、部屋を後にした。




