あの時の真実
正直最初に目覚めたときから、状況はかなり絶望的だと思っていたらしい、目の前に大木の様に立ちふさがる女性に対し、まったく勝ち目がないと思った。だからこそ彼女が仲間にならないかと提案した時、一瞬心が揺れてしまった。しかし彼女の仲間になれば、何年、何十年たとうとも犯罪の片棒を担がされるだけで、コチカとクイネを故郷に帰すことはできないだろう。そう思ったからこそ、彼女の話を断った。
そうなると、必然的に闘争になるのはわかっていたが、相手はただの賊ではなかった。
力任せに見えて明らかに洗練された動き、一目で自分と同じ軍人で、なおかつ最低でも小隊長クラスの実力者だとわかった。そんな相手にたかだか基礎訓練を積んだだけの一兵卒である自分がかなうわけないと思った。しかし諦められなかった。それほどまでに、あの約束を交わした時、そしてあの人の奴隷になったときに抱いた感情は大きかった。
だが結局そんな感情論では現実が変わるわけでもなく、瀕死の重傷に追い込まれた。このまま奴になぶり殺されるくらいなら、最後にもう一度あの人の手に触れてみたかった。あの時体に流れ込んできた、これまでの奴隷契約とはまるで違うあのやさしさにあふれたエネルギーの正体を知っておきたかった。
そうして彼に触れたとき、再び私の中にあのエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。だが今回はそれだけでなく、そうして入ってきたものが私の細胞とまじりあい、そして活性化させていく、そして細胞が活性化した組織はそれまでの戦闘でずたずたになったにも拘わらず、再生と再起動の道を歩み始めた。そして気が付いた時にはあの賊を吹き飛ばしていた。
「こんなこと、前にあったの」
「いいえ、初めてです。もしかするとご主人様は特別な力をお持ちなのかもしれません」
「それは・・・どうかな」
「でもご主人様は外界人であらせられますので、可能性はゼロではないかと」
「そうだといいね」
でもそんな特別な力があっても活かせなければなんの意味もない。また今回のようなことになったら、ヴァルフの身体は確実にもたないだろう。
「ご主人様、一つお願いしてもよろしいでしょうか」
「はい」
「手を握ってはくださいませんか、もしかすると、またあの時のようなことが起こるかもしれませんので」
「わかった」
ヴァルフは布団から動けないので、僕が自身の手を布団に入れ、その中にあったヴァルフの手を握った。
「どうかな」
今のところ僕は何も感じていない。ヴァルフに特別な力が宿ったあの時は彼女と深い部分でつながり合えたような感覚があった。
「温かいこと以外は、何も感じませんね」
「そっか」
僕はゆっくりと布団から手を出し、膝の上に置いた。
「はて、お二人とも今は何を」
ずっと後ろで僕らのことを見ていた、トクシンさんが気になった様子で声をかけた。
「えっと、ちょっとした実験を」
「実験ですか」
僕はヴァルフの許可を取ってからあの洞窟での出来事をトクシンさんに話した。思えば彼はヴァルフの担当医なのだから最初から知る権利はあったと思う。
「なるほど、そのような効果が隷属魔法にあるなどという話は聞いたことがありません、がしかしそれならば、もしかすると私にも手伝えることがあるかもしれません」
「えっ、トクシン様は魔法の心得もおありなのですか」
「いいえまったく。ですがお二人の話を聞いている限り、心を一つにするということが能力の発動条件なのかもしれません」
「なるほど・・・」
「ではお二人とも改めて手を握り合ってください」
そういわれるとなんだか気恥ずかしさがあるが、僕らは言われた通りに手をつないだ。
「目を閉じて、ゆっくりと呼吸をしてください。そして一度心の中を空っぽにするのです」
言われた通りにやってみると、自然と肩の力が抜け、先ほどまで感じていた気恥ずかしさがなくなった。
「ではよろしいですね」
僕らは静かに目を開いた。




