ヴァルフの目覚め
「本当!!」
「お姉ちゃん起きた!?」
「はい、今しがた。しかしまだ布団から出られるような状態ではありません」
「そうですか」
それでもひとまずは無事が確認できただけでも僕はほっと胸をなでおろした。しかし子供たちはここまで我慢していた分今すぐにでも会いたいと尻尾を震わせた。
「とはいえまだまだ彼女のけがは深刻です。ですのであまり激しく揺さぶったりしてはいけませんが、そばで座ってお話しするくらいならいいですよ」
トクシンさんのお許しが出たので、僕らはそろってヴァルフの病室に向かった。だが僕は直前になって足がすくんだ。あの事件は僕が弱いから起こったことだ。もし僕があの時のヴァルフのように強ければ、きっと彼女が生死の境をさまようようなことはなかったはずだ。その後悔が僕の足を止めた。
「二人とも先に行っておいで、僕はここで待ってるから」
「よろしいのですか」
「ええ、トクシンさん二人をお願いします」
本来なら僕が立ち会うべきだが、医師である彼の方が抑止力になる。それにこの人ならこの子たちにひどいことをしないという確信がある。
「わかりました。それじゃあ二人ともおじさんと行こうね」
「「うん」」
二人は久しぶりにヴァルフと会えることのうれしさで心がいっぱいであっという間に僕を置き去りにして、病室へと入っていった。すぐさま喜びの声があたり一帯に響く中、僕は廊下に座ってただ天井を眺めていた。
やがて部屋の中から聞こえる声は泣き声へと変わり、そして感情のジェットコースターが一段落したのか、部屋の中が静かになった。それからさらにしばらくした時、病室の扉がすっと開き、瞼を真っ赤にしたクイネとコチカが出てきた。
「ヴァルフお姉ちゃん怪我いっぱいしてた」
「でも生きてた」
「ええ、必ず彼女はよくなります」
「本当?」
「もちろんです。だから今はあの人を信じて、お二人もゆっくり休んでください」
トクシンさんが肩に手を当てると、二人の呼吸が一気に落ち着き表情も少し柔らかくなっていた。
「チセ、二人を寝室にお願いします」
「承知しました。行きましょう」
コチカとクイネはチセに先導され、廊下の奥へ消えていった。
「さてと、それではツレヒト様」
「は、はい」
「中で患者様がお待ちです」
「でも・・・」
「彼女はすべてわかっておいででしたよ。それでもあなたにお会いしたいと」
「・・・わかりました」
僕は覚悟を決めて、病室へと足を踏み入れた。そしてすぐに言葉を失った。
「ご主人様、すいません、こんな見苦しい姿で」
彼女は優しくそしてやや自虐的にほほ笑んでいた。しかし顔の半分は包帯で覆われ、片目が見えていない状態で、それでもなお僕のことを優しく見つめていた。
「ヴァルフ・・・大丈夫なの?」
「薬のおかげでしょうか、自然と今は痛みはありません」
「そうなんだ」
「でも、この布団より外に出られる気がしません」
「そうだよね、うん」
僕は何を言えばいいのか、本当にわからなかった。ただ目の前にいる傷ついた仲間の姿を呆然と見つめるしかなかった。
「ご主人様は、ずっと自分のことを責めていらっしゃいますね」
いきなり核心を突かれ、僕は沈黙で返すほかなかった。
「やはりそうでしたか、ずっとうわごとの様におっしゃってましたからもしかしてとは思っていましたが」
「起きてたの?」
「ずっとではありませんが、途中ほんの少しだけ。奴隷商人様に背負われるなんて、そうそうできる経験ではありませんので」
山道を登るとき、何としてもヴァルフを助けたい一心だった僕は、自身を鼓舞するために思っていたことが、そのまま口に出ていたらしい。
「ですが、あれは避けようのない事故のようなものです。この世界には獣人ではなく、人間の盗賊もいます。それにあの闘いはご主人様がいなければきっと勝てなかったと思います」
「それはどういうこと」
ヴァルフはゆっくりとあの洞窟でのことを語りだした。




