折り紙を教えて
結局その日は、ヴァルフが目覚めることはなく、子供たちは登山の疲れかすぐにぐっすり眠ってしまった。そういう僕もあっという間に睡魔に負け、コチカとクイネの間で眠った。そして翌朝朝食を取ったのち、またしても時間を持て余してしまっていた。その時だった。
「失礼します」
襖がスーッと開き、その奥からチセが姿を現した。
「うわー、ご飯の人なのです」
「お食事~」
「いえ、昼食はまだです」
「二人とも、チセさんは今日は遊びに来たんだよね」
「いえ、師匠からは折り紙という物を習うようにと」
「まあ、確かにそうだね。でも折り紙って本来はまじない用の物じゃなくて、楽しい遊びなんです。だからそんなに硬くならなくても大丈夫ですよ」
「わかりました。では御指南のほどよろしくお願いします」
僕の言ったことは何か意味があったのかわからないが、チセは僕らの元へと、滑るようにやってきた。
「じゃあ、まずは昨日やった鶴からやりましょうか」
改めて全員に鶴の折り方を教えたが、コチカとクイネは昨日もやったからわかるとしても今日初めてやったチセは二人以上に器用にきれいな鶴を完成させた。
「これはなかなか難しいですね」
「ほんとなのです?」
「超きれい~」
「あ、ありがとうございます」
コチカとクイネに褒められて初めて、チセはほんの小さくではあるが、かすかにほほ笑んだ。
「ご主人様」
「なあに」
「ほかにはどんなのがあるの~?」
クイネが目を輝かせながら、膝の方へとすり寄ってきた。僕は彼女の頭を撫でながら、少し考えた。
「いろいろカな、動物やお魚、あとはちょっとした道具みたいなのもあるよ」
「すごいのです」
「もっと教えて~」
「はいはいわかったよ、じゃあ何から始めようか」
結局二人の要望に応えていくうちに、一つまた一つと、折り紙ができていった。チセもまたリクエストこそしないものの、作った兜をかぶって遊んだり、時に僕の目が届かない部分をフォローしたりしながらも、次第に肩の力が抜け、一緒に楽しんでいるように見えた。
そしてそんな時間がしばらく続いた頃、ふとチセが尋ねてきた。
「皆さんはずいぶんと距離が近いように感じますが、どうしてなのですか」
「ああ、えっと」
こんな山奥に住んでいるので、もしかするとチセは奴隷というものの存在すら理解していないかもしれないが、それにしても獣人と人間とここまで楽しそうに遊ぶ光景はこの世界からすれば珍しいのかもしれない。
「一応お二人が、あなた様のことをご主人様と呼んでいるので、おそらくは従者、あるいは奴隷と主人の関係であることはお察ししますが、あなた方のようにともに寝たり遊んだりすることは大変珍しく思いまして」
「ああ、それですね。正直僕らは便宜上契約を結びました。でも、だからと言ってその通りにふるまうことは、僕はしたくないんです」
「なるほど」
「それにほら、子供はいっぱい遊んで、いっぱい食べて、いっぱい寝て大きくなるものでしょ」
「・・・確かにそうですね」
次の言葉を発するまでの間にチセは少しだけ上の空になっていた。もしかすると何かを思い出しているのかもしれないが、それが何なのか、僕にはわからなかった。
「皆さま・・・おや、これはずいぶん作られましたな」
「師匠、申し訳ございません。夢中になってしまいつい」
「いいのですよチセ、私は怒っているのではありません。あなたが楽しめるものが見つかって私は嬉しく思います」
いつの間にか部屋に入ってきていたトクシンさんはいつものように穏やかな口調ではあるが、やけに穏やかにチセの頭を撫でた
「おっといけない、本題を忘れるところでした。ツレヒト様、そしてお連れ様」
「はい」
「患者様、いえ、ヴァルフ様がお目覚めになりました」
「ええ」
僕らは持っていた折り紙を地面に落とした。




