反撃の一手
そこから先は一方的な戦いが、続いた。相手はこぶししか使っていないにもかかわらず、防御の術を失ったヴァルフは何度も攻撃をくらい、もはや立っているのもやっとの重症になっていた。
「もう、そこまでにしようぜ、私だって同胞を打つのは心が痛むんだ」
「何を戯言をあなたは暴力に溺れたただの快楽主義者です」
「そんなことは・・・ねぇよ」
無駄に一瞬間があったせいで、言葉に信ぴょう性がない。しかしそんなことよりもこのままヴァルフが倒れてしまうことの方がよっぱど問題だ。僕も何とか鎖を解こうと頑張ってはいるが、金属製の鎖を引きちぎるほどのバカ力は与えられていなかったようだ。なのでもどかしい気持ちを抱えながらジタバタとも額しかなかった。
「そろそろトドメだ」
相手の渾身の一撃がヴァルフの腹部中央にダイレクトにヒットした。ヴァルフは胃の中身を口から吐き出しながら、僕の元へと吹き飛んできた。
「ヴァルフ!!」
「申し訳ございません。ご主人様、武の心得は、多少あったのですが」
「しゃべらなくていい。狙いは僕だから、僕の後ろに隠れて」
「そういうわけには」
ヴァルフは僕の指示を聞くことなく、依然として僕の前に立ちふさがろうと足に力を入れふんばっている。しかしその足もまた度重なる負傷によって
自身の身体を支えることすら困難になっていた。
「へぇ、まだやるのか」
「ええ」
口では虚勢を張っているが、もはや立っていることが奇跡のような状態であることは相手もすぐさま見抜き余裕の笑みを浮かべた。もはやここからの勝算はない。せめて僕にかけられた身体能力強化が彼女にあったらこんなことにはならなかったのかもしれない。
そんなことを考えている間に、再びヴァルフは地面に倒れこんだ。
「ご主人様、申し訳ございません」
「いいんだヴァルフ、ありがとう」
ここまで命を賭して尽くしてくれた彼女に何も返してあげられないことに、僕はただただ歯がゆい思いに胸が締め付けられそうになった。
「僕の方こそごめんなさい。あなたに対して何もできなかった」
「いえ、わずかな間だけでも幸せな夢を見ることができた。それだけで十分です。どうかあの子たちを頼みます」
感謝するのは僕の方だった。自分勝手な夢であっても誰かとそれを分かち合うことができた。騒がしくも温かい食卓を囲むことができた。それだけでもこの異世界に来た意味はたしかにあった。ここでの生活が次の一呼吸の間に終わるとしても、あっちの世界での十数年の人生よりもはるかによいと言えるものだった
「腹は決まったみたいだな。じゃあ二人とも仲良く逝けや」
振り上げられたこぶしが迫る最中、どちらが意図したわけでもなく強く手を握り合っていた。もはや避けようのない運命の最中僕にできるせめてもの奉公のつもりだった。
終わりが着々と近づく中、僕は再びヴァルフと心からつながっているような感覚を覚えた。その瞬間だった。
「な、なんだてめぇ」
振り下ろされたこぶしが僕の目の前で止まった。
「どこにそんな力持ってやがった」
相手が驚くのも無理はなかった。僕の目の前では満身創痍だったはずのヴァルフが岩のように巨大なこぶしを手のひらで止めていたのだ。
「正直どういう理屈か全くわかりませんが、何やら力が沸いてきました」
「ヴァルフ!!」
「ご安心くださいご主人様、どうやらまだ私は戦えるみたいです」
先ほどまでからするとありえないほど素早くヴァルフは立ち上がると、ファイティングポーズを構えた。
「くそ、変なドーピングしたくらいで調子に乗るんじゃねぇ」
目の前の相手も何が起こったのか全く理解できずに、混乱しながらも眼前の敵に向かって、再びこぶしをふるった。しかし
「あなたの攻撃はもう見切りました」
ヴァルフはやすやすとかわし、今度は攻撃の型に切り替えた。
「さんざん喰らいましたから」
彼女がこぶしを強く握ると、そこを起点に腕全体が淡い光に包まれた
「これは・・・まあいいでしょう。喰らいなさい、」
「調子に乗るなって言ってんだろうが」
牛の獣人の天井を揺らすほどの咆哮もむなしく、ヴァルフの左フックが相手の下あごを的確にとらえた。
「狼楼拳、横牙」
ヴァルフの一撃により、巨体の獣人が一撃で意識を失い、その場に倒れこんだ。




