人質交渉
次に僕が目を覚ました時、そこはさきほどまで走っていた草原ではなく、岩を削り取って作られた。洞窟の中であった。だがあたりがはっきりと見えるほど、中は明るく。それはここを作った主が、岩肌をわずかに削り、その中にろうそくを入れ、明りとしていた。
「起きたか、奴隷商人」
奥から低く重い声がしたかと思うと、先ほど僕をとらえた牛の獣人が座り込んでいた。
「僕たちをどうする気ですか」
「ひとまず、お前は殺す。だが後のやつらは・・・そうだな意思次第では仲間に加える」
「・・・そうですか」
旅を初めて序盤にいきなり命の危機に遭遇してしまい、全身から血の気が一気に引く。なんとかして打開のチャンスを狙ってみたが、その時になって初めて、僕は自身が拘束されていることに気が付いた。
「無駄だ、お前の力じゃこれは外せない。そしてカギは私が持ってる」
ならばそれを奪い取ればいいという話になるが、そんなことができるほど僕は強くない。目の前の女性は馬車を丸ごとひっくり返すほどの怪力の持ち主で、それを100%僕に対し使った場合、たとえ神様の強化があったとしてもほぼ確実に僕の身体がもたない。
「いったい何が目的ですか」
力技では無理なので、ここは平和的な交渉による解放を狙ってみる。最悪相手の目的がお金なら神様からもらった分があるので、金額次第では何とかなる気がする。
「目的? ああ復讐だよ。人間どもへの、特に外界人とか呼ばれる奴ら、あいつらを一人残らずぶっ殺す。それ以外に目的なんてねぇよ」
「ああ」
これはまずい、いよいよどうにもなりそうになくなってきた。
「で、お前も外界人だろ、奴隷商人」
「うっ」
どうして一目でばれてしまったのか、嫌そんなことよりも大事な問題が目の前にある。
「だがまあ、お前の処理はそっちの嬢ちゃんにやらせるのも悪くないかもな」
その視線の先には、目を覚まし、同じように拘束されたヴァルフがいた。
「おい、狼の獣人」
「ヴァルフだ」
「そうかヴァルフ、お前見たところ軍人だろ。どうだ私の仲間になる気はないか」
「ありません」
「まあ、そう言うなよ、なにも無償で仲間になれっていうわけじゃない。お前の望みを一つ叶えてやる」
その言葉にヴァルフは一瞬迷った。それもそうだ、僕よりもこの目の前の獣人の方がはるかに武力がある。なのでこの国を渡っていくのに今の状況で彼女より頼りになる存在はそうはいないだろう。
「・・・おことわりします。あなたと一緒では、あの子たちは安心して過ごせない」
「そうか、それは残念だ」
ヴァルフの前に牛の獣人が立ちふさがり、こぶしを振り上げた
「今のお前の言葉が、本心なのか、あの奴隷商人の洗脳なのかわからねぇが、まあどっちにせよ私にはどうにもできねぇことだ」
ヴァルフはとっさに両手を組み、防御の構えを取るが、相手のこぶしはそれをやすやすと打ち砕いた。やや離れている僕の耳にもはっきりと腕の骨が砕ける音が聞こえた。
「ヴァルフ!!」
「・・・大丈夫です。ご主人様」
そうはいっているがヴァルフの左腕はだらりと垂れ下がり、右腕はかろうじて動くもののひどくはれ上がり、まともに使えるような状態ではなかった。
「待て、僕が憎いんだろ。やるなら僕をやれ」
「いけませんご主人様」
「ヴァルフ!?」
「あの子たちがこの世界で生きていくにはあなたの力が絶対に必要です。だからあなたはここで倒れてはいけない」
「それは君もそうだろ」
「私は・・・あの子たちの親でも姉でもない」
「それはそうだけど」
「いつまでダベッってんだ」
僕たちの会話に割り込むように、怒鳴り声が響く。それは声というより咆哮に近く、僕らは同時に震えあがった。
「お前がどうしようとどっちにせよ。両方とも殺す。そのことに変わりねぇんだよ」
牛の獣人は再び僕らに襲い掛かった。




