初めての奴隷契約
「みんなを家に帰したい」
僕はたしかにそう誓った。
「ありがとうございます」
ヴァルフは泣きながら喜んでくれたので、僕もより一層頑張ろうと思った。
「ですが、そうなると私たちとツレヒト様との奴隷契約は必須なものになるでしょう」
「どうして」
「人間の経済圏では獣人である我々に人権がないのは重々お判りいただけたかと思いますが、奴隷となれば最低限ご主人様の所有物という理由で生存が認められてます。ですがそれがなければ、人さらいの対象になったり、命を狙われたりなどまともな暮らしはまず無理でしょう」
それを聞いてしまうと胸が苦しくなるが、彼女たちを守るために僕は契約を交わすことにした。
「それで、奴隷契約をするにはどうすればいいの?」
「簡単です。ご主人様の血を一滴飲ませながら、隷属魔法を行使すればよいのですが・・・もしかして、ご主人様は魔法が使えないのですが」
「あはは~どうでしょう」
正直神様の説明にもそのことについて触れていなかったので、正直できるかどうかわからない。でも僕にはギフトが付いているし、そもそも僕をこの職業に割り振ったのは神様自身だ。だから当然隷属魔法とやらが使えるように設定しているはずだ。でなければ初手から詰んでいる。
「えっと、とりあえずやってみますか?」
「いいんですか」
「ええ、子供たちで試すわけにもいかないでしょうから」
「それはそうですけど」
結局どうしようもなくなり、僕はヴァルフさんに言われるまま準備を始めた。と言っても特別な魔法陣も道具も必要なく、調理用のナイフで軽く指先を切って血を垂らす。
「それではご主人様、失礼いたします」
ヴァルフは血が垂れる僕の指先に唇の先をそっと当てると、息を吸い込む時の力を利用し、僕の血を吸い出した
「それじゃあ、行くよ」
全く原理はわからないが、とりあえずヴァルフと僕自身のことを思い浮かべながら目を閉じる。すると全く意識をしているわけでもないのに、僕の心臓から血を流した指先を通してヴァルフの中に不思議なエネルギーのような流れ込んでいくのを感じた。そしてヴァルフの体内に入ったエネルギーは彼女の心臓にたどり着くと、そこから体全体に広がっていった。
「契約完了です」
集中するあまり、いつの間にか目を閉じていたが、ヴァルフの声でゆっくりと瞳を開く。
「うまくできましたか」
「ええ、この通り」
ヴァルフは上着の胸元を少し緩め鎖骨の中心部にあたる部分を僕に見せた。するとそこには先ほど見た時にはなかった奇妙な赤い丸印がついていた。
「これが奴隷紋」
「そうです。これが奴隷にとっては生存権の証であり、通行手形でもあります」
「ああ、そういうこと」
「えっと、特に体が変とかそういうことはありませんか」
「いいえ、特には。それに慣れっこですから」
「そうなんですね」
慣れているということはそれだけ何度も違う人に仕えては捨てられを繰り返してきたのだろう。本人はやや自嘲的に笑っているが、僕はそれに合わせて笑うことはできなかった。
「これで代々の流れはわかったと思いますので、明日あの子たちとも契約を結んではいただけないでしょうか」
「わかりました」
ということが昨晩の間にあったのだ。一応そのことをコチカとクイネにも説明したが、二人とも半分くらいしかわかっていないような感じだった。だけども奴隷契約をすることはしっかりと理解しているようで、僕が血を流すと、二人とも一切抵抗することなく口を開けた。
「あのー昨日聞くの忘れていたんですけど、血は取り込めればいいわけで、方法はなんでもよかったんじゃあ」
「はい」
「わざわざ僕の指をくわえる必要は」
「ありません」
「・・・」
ここはではっきりと開き直られると、これ以上詮索すること自体が無意味な行為に思えてきたので、僕は追及をやめ、コチカとクイネとの奴隷契約に専念した。




