確信を突いた機密事項
「申し訳ございません、そのことは機密事項だったのですが、どうやらうっかり従業員が漏らしてしまったようですな。彼には後で厳重に処罰いたしますので、ツレヒト様におかれましてはどうか、昨日聞いたことを忘れていただけませんか」
「いえ、それはできません。ですが」
「ですが?」
「口外するつもりもありません。僕だって会長とはよい関係を築いていきたいですから。そこでなのですが、その白狼族をこのチセに診察させてはもらえませんか」
「・・・」
思った通り会長はすぐには返事しなかった。確かにチセの技術は知れ渡っている。それに白狼族の女が再び表舞台に戻ればそれだけで生み出される利益は莫大なものとなる。とは言え白狼族が貴重かつ、無限の財を生み出す金のガチョウであることは、人族では有名な話。万が一にもツレヒトがこの事実を外部に漏らせば、何としてでも奪おうと躍起になる輩が無数に湧いてくる。そんなジレンマに板挟みにされた、会長は返事を渋っていた。
「しかしながら、獣人の身体は我々とは違う部分がある。まあそこが魅力でもあるのですが。チセ殿のようなお若い医師に診察できるのでしょうか」
「ええ、彼女は師匠は変わり者でして、人も獣人も分け隔てなく診療し、治療してまいりました。彼女と出会ったのもそもそも山賊に襲われ傷ついた僕の奴隷を治療してもらったことがきっかけでしたので、彼女の腕はたしかです」
「・・・」
一応会長もやれるだけのことはやってみた。しかしどれだけ高い金を積んで呼んだ医者も口をそろえて、獣人は専門外だから、できることをするとしか言わなかった。だが今目の前にそれを為せるという医者がいる。それは彼にとって喉から手が出るほど欲しい人材だった。
「わかりました。では報酬はいかほどに」
「いえ、報酬などいりません。僕らの目的はあくまで会長と親しく長く、関係を保つことですから」
「しかし、それでは」
「ご主人様」
「チセどうしたの」
「ここは会長のメンツのためにも報酬をいただいておくべきかと、とはいえいきなり払えと言うのはためらわれるかと思われますので、処置を施すたびに都度請求すると言った形でいかがでしょうか」
「チセ、それは」
チセは僕のすぐ横までくると、耳元に口を近づけ、こっそりと話してくれた。
「この場合報酬をいただかない方が、かえって怪しまれます。ですが無理に吹っ掛けるのもよくありません。ですので相手がもっとも手軽にお金を出しやすい形にするのがベストかと思います」
「わかった。その線で行こう」
「かしこまりました」
チセとの密談を終え、改めて会長と向き合うと彼の顔に先ほどまでのどす黒い色はなく、逆に曇りか雨かわからない時の空模様の様に、様々な迷いに満ちた表情をしていた。なので、ここはもう一押ししてみることにした。
「僕らとしても、様々な場所をめぐるためや、当然この街で買い物をするための路銀が安定して供給できるというメリットがあります。ですので、どうかお願いできませんでしょうか」
僕の一言が効いたのか、とうとう会長はゆでだこのように真っ赤になりながら、それでも必死に頭をひねり結論を出した。
「わかりました。お願いしましょう。ですが」
「ですが」
「私と、その護衛もご一緒させてもらいますがよろしいでしょうか」
できれば僕らだけにしてほしかったが、見たところそう言うわけにはいきそうにない雰囲気だった。
「わかりました」
そうして僕は会長とその一行を加えて、例の街へと降りていった。




