一致団結心を一つに
「・・・わかりました」
「ヴァルフ」
「私はもうこれ以上、ご主人様の案に反対は致しません。なによりこの作戦の核となるチセが覚悟を決めているのですから、それ以上に私が駄々をこねるわけにはまいりませんし」
「いいんだね、ヴァルフ」
「はい、二言はありません」
「ありがとう」
僕はチセの覚悟だけでなくヴァルフの優しさにも助けられている。そのことを改めて思い知った。
「それでは、ここからは細かい部分を詰めなければなりませんね」
「そうだね」
「改めて確認しますが、あの町に入れるのは人族と、売買のための奴隷のみでしたよね」
「ええ、そして私が確認したことですが、売買のための奴隷はあの町に入ってすぐに検査官によるチェックが掛けられ、種族、健康状態、体つきなど、様々な項目ごとにランク付けされ、そのランクに見合った販売所にうつされるそうです」
「つまりは連れ歩くことすら難しいってことだよね」
「ええ、なので当日は私とご主人様の二名で潜入することになるでしょう」
「おい待てよ、ここまで来て私も留守番かよ」
「・・・そうなるね」
「ふざけんなよ、それでもし全くの別人だったらどうするんだよ」
確かにそうだ。今のところあの街に白狼族は一人しかいないとはいえ、その容姿まで確認したわけじゃない。となるとやはりリースの姿を確認してもらう必要があるかもしれないが、どうしたものか。
「でしたら、ローブで全身を覆いましょう。それで肌が極端に弱いということにすれば、問題なく進めるかと」
実際あの町で僕らは一切身元や身体を調べられなかった。そこにはきっと会長のお墨付きという油断の材料があるからだろう。
「わかった。それでいいかいリース」
「ああ、わかった」
「それで残りの皆は馬車で待機してて。ヴァルフ、いざというときは強引に脱出しなければならないかもしれないから、いつでも馬車を出せるようにしておいて」
「心得ました。二人にも荷台の中にいるように、言っておきます」
「頼むよ」
「それで、当日だけどまずは会長に話をして、例の白狼族の人がいるところまで通してもらう。そして後はチセが診療し、なんだかんだ言って治療の場所を移すために外に連れ出す。そしてそのまま馬車で逃げる。これでいいかな」
「ええ」
「問題ありません」
「ああ」
ここにきて初めてリースを含めた皆の意思が一つにまとまったのを感じた。
「よし、それじゃあ決行は明日、急だけど僕らには猶予がない。出来るだけ早急に事に取り掛かろう」
「「はい」」
「おう」
こうして僕らは作戦の概要を早急に固め、各々が明日に備えて動きだした。
「あの、リースさん」
「なんだ」
話し合いが終わってしばらくして、チセがリースに話しかけた。
「念のためですが、リースさんが獣人であるとばれないように、匂い消しを作りました。使ってください」
「なんだ、あたしが臭いって言いたいのか」
「いいえ、でも万が一ということがありますので、どうか」
リースはチセから匂い消しを受け取った。それは硬い葉に包まれた軟膏状のもので嗅いでみるとかぐわしいフルーツの香りがした。
「・・・わるいな」
「いいえ、それじゃあ」
「ちょっと待てよ」
気が付けば、リースはチセを呼び止めていた。明日にはいよいよ例の作戦が実行される。なので今日はできることならさっさと休んだ方がいいとわかっているのに気が付いた時には、彼女を呼び止めていた。
「なんで、獣人である私たちのことを助けようとするんだよ。お前人間の医者だろ」
獣人の世界にも医者はいる、だが彼らは獣人しか診ない、それは人間の医者も同様だ。だがこのチセという医者だけは違っていた。
「リースさん、あなたは一つ誤解をしています。私は人間の医者ではありません」
「でも、お前は人族だろ」
「ええ、でも私は人間の医者でなく、苦しんでいる辛い人みんなの医者です。だから人族であれ、獣人であれ、皆を等しく助けるのです」
チセは迷うことなくそう言い切った。そしてその言葉にリースはあっけにとられているリースを見て、優しい笑顔を浮かべた。
「おまえ・・・変わってるな」
「だからこそ、この一団の医師が務まるのだと思っています」
若干小ばかにされたようなような物言いを残しチセは静かに寝床へと向かった。その様子を見たリースはチセのことを良い意味で変人だと思うことにした。




