食器破壊の常習犯
前に狩ったイノシシの肉はここ数日間でほとんど使い切っており、残っている分は保存食となったため、今日のスープは久しぶりに野菜のみの一品となった。しかしながらヴァルフの腕がよいおかげで、野菜のうまみとスパイスの刺激を同時に味わうことができる。
「うん、やっぱりおいしい」
「おほめにあずかり光栄です」
改めて非戦闘時のヴァルフを見てみると、面倒見がよく、料理ができて、おまけに裁縫もできるときた。まさに良妻賢母となる人物だと思う。
「いかんいかん」
あの町でチセに対し、ヴァルフに手を出すつもりはないとはっきりと言っていたにもかかわらず、それと矛盾した考えが頭に浮かんでしまっている。僕は何とか雑念を追い払うと共に、ヴァルフスープでそれを体の奥深くに流し込んだ。
「ずいぶんと長くかかりましたが、かなり遠くまで行かれていたのですか?」
「いや、行きと帰りはずっと目隠しをしていたから実際どのくらい遠くまで行ったかはわからないんだ」
リースの話によると、僕らが今日行った町と、ギルドの受付は構造としてはつながっているようだが、実際に行くとなるとどれくらい距離があるのか、それははっきりとしなかった。
「しかし、日の光の当たらない場所でした。おそらくは地下か洞窟の中かと思われますが」
「あそこは地下街だ。私とお母さんは階段を上ったんだ。だから地下だ」
まあ確かにリースのいう通りではある。ざっと見た感じこの付近に洞窟はなさそうだったし、それに全く人目につかずに目隠しした人物を外の洞窟に運ぶなんてことはいかにギルドと言えど容易くはないだろう。
「どちらにせよ、出入り口が限られているという点は同じなので厄介ですね」
「そうだね、僕らも何とかあたりを探ろうとしたんだけど、止められちゃって」
実は帰りの馬車の中でこっそりと目隠しをずらし、あたりの景色を見ようとしたが
「目隠しがずれてますよ」
なんともなまめかしい声と共に、細い女性の指が僕の顔を覆い、そして気が付いた時には視界が元に戻っていた。なので結果として情報は得られずじまいだった。
「あの場所のことはともかく、リースのお母さんについてはいくつかわかったことがあるんだ。だから食事の後でいいからリース、それにヴァルフも天幕に来てほしい」
「承知しました」
「ああ」
リースはぶっきらぼうに返事したが、彼女の顔には期待の色が見て取れた。
「ですが、そうなるとこの食器の洗浄はどなたが」
「あっ」
子供たちは基本食べたらすぐに横になるし、名前は出していなかったが当然僕とチセも参加する。となると手が空いている人物は一人もいなくなる。
「お皿洗い、やるのです」
「任せて~」
「いいの二人とも」
「一応彼女たちにも経験はありますので、任せて問題はないかと、ただ」
「ただ・・・二人とはそれなりに長い間。共に過ごしていたのですが、その彼女たちは食器破壊の常習犯でして」
「そうなの」
「はい、あまりにも多くの食器を割ってきたために、以前の主人からは逆に食器洗いをするなと言われることもあったくらいで」
そんな経歴があるとは思ってもみなかったが、奴隷はそう安くはない。そしてそれを売買できるだけの人物ということはそれなりに裕福なはずだ。となるとただの食器一つとってもそれなりに値の張るものばかりだったはずだ。
「まあ、僕らが使ってるのは木製だから、大丈夫じゃないかな。ということで二人ともお願いしていいかい」
せっかくやる気になってくれているのだから任せてみるのも悪くはないはずだ
「はいです」
「おまかせあ~れ」
やる気になった二人の頭を交互に撫でながら、僕はその先のことに意識を切り替えた。




