毒も薬の使い手次第
「この緑色の植物には強い催眠作用がございます。なので獰猛な猛獣を眠らせたりすることに使えるそうですが、少量であれば鎮痛剤やそれこそ麻酔の代用品になりえます」
そう言えばヴァルフの治療の際にもおそらく麻酔が使われたはずだし、最初の街でも鎮痛剤はそれなりに高かった気がする。
「しかし、使用頻度を間違えれば中毒を引き起こしてしまい、たとえ体が元気になったとしても禁断症状に苦しめられることになるでしょう」
「それは・・・怖いね」
「ええ、確かに取り扱いには注意の必要な物ですが、それでもこちらでは希少なものです。それが話の割には安値で取引されていたので、買いました」
おそらくチセはその理由について、しれっと自身で口にしているのだが、本人にその自覚はないようだ。
ここにいる人たちはこの草を催眠薬として使う。これを暴れる獣人に飲ませておとなしくさせて捕獲する。大体そんなところだろう。
「それとこちらの赤い薬草は催淫作用のあるものです」
「え、チセちょっと待って、今のところ僕にそれを使う必要はないよ。みんな大切な仲間だからそんなことするわけには」
「もちろんわかっておりますとも、それに催淫効果と言ってもご主人様が考えるようなものではありません。すべての毒、薬は用法容量次第、すなわちそれを扱う者の技量次第で、どうにでも姿かたちを変えるのです」
「つまりはこれも使い方によっては薬になると」
「ええ、もちろんです。これは正しい量を煎じ、香として体内に摂取することによって、血行促進や体温の上昇、また感覚器の覚醒など得られる効果は様々です」
「えっと、つまりはどういうときに使うの?」
「そうですね・・・主には神経毒への対処、また停滞状態の改善、また落ち込んだ時に気分を高揚させるためなどにも使えます」
「神経毒? でも血の巡りを良くしたら毒が回るのも早くなって逆効果じゃない?」
「ご主人様の指摘はおおむね正しいです。ですが神経を硬直させる毒には心臓の動きを止めるものや血流を阻害するもの等があります。それへの対処法として血管を広げたり、興奮状態にすることで心拍数を上げるなどの手段で完全な解毒とまではいきませんが、治療のために必要な時間を生み出すことができます」
「へ~そうなんだ」
正直ここまでくると何を言っているのかさっぱりわからないが、それでもいざというときのためにはあって困らない物であることは確かだ。
「ですので、ご主人様が考えているような用途では決して使いませんのでご安心を」
「わかってるよ!!」
「ですが、ご主人様がどうしてもおっしゃるなら医師として適切な用量を」
「ないよ、そんなこと!!」
あの山を下りてからチセは僕らと多くの言葉を交わすようになったが、それと同時に年相応のいたずら心が芽生えてきているような気がする。それでも僕はそんな一面を持つチセのことを仲間として尊敬しているし、信頼している。
「・・・ですがご主人様、世俗に疎い私から見てもご主人様とヴァルフさんの関係は特別なものだと思います。それを今日ここにきて確信しました」
「特別って言ったって」
「ええ、私も完全に理解しているわけではありません。私が知っているのは医術のみ、それ以外はまだほとんど何も知らない子供なのですから」
チセはここにきて自身がまだ井の中の蛙であることを痛感したようだった。だがそれと同時にトクシンさんがチセを山から降ろさせたことの意図をきちんと理解したようだ。
「ですので、そちらについてはなにも提言できません。なのでそこはご自身で解決してくださいませ。それまでは皆さまの健康は私が守ります」
「ありがとう、チセ」
本当にトクシンさんは大きなものを残してくれた。僕は改めて彼の偉大さに胸を打たれつつも、最初に訪れた乗り合い所の受付のカウンターについた。




