確信と脱出計画
方針が決まったことで、僕はチセと合流するため、先ほどの別れたエリアまで戻ってきた。チセのことだからそう遠くまでは行っていないだろうとは思っていたが、予想以上に人の数が多くその中からチセを探し出すまでに五分ほど要してしまった。
「ご主人様、お疲れ様です」
「うん」
「それで何か収穫はありましたか?」
「もちろんだとも、リースの母親らしき人物がいるお店を特定できたよ」
「それはなんと!! 流石はご主人様です」
「大げさだな~。と言っても実は少し問題があって」
僕はあの店での出来事を一通りチセに共有した。
「なるほど、病気ですか・・・」
「具体的にどんなものまでは聞けなかったけど、もしかしたら伝染するタイプかもってことで表には出られないらしいんだ」
「・・・人にうつさないために、表舞台に出していないのは賢明な判断と言えますが、果たしてこの場所でまともな治療環境が用意できているかどうか」
山の上で病院を開いていたチセが言えることではないような気がしなくもないが、確かにあの屋敷は広さの割に色んなものがあった。それでもあの山小屋を病院たらしめていたのは、ひとえにトクシンさんとチセの技術力のおかげであることは間違いない。
「そこでなんだけど、チセが医者としてあのお店に入って、ここでは高度な治療ができないってことで外に運び出すってのはどうかなと思って」
この街の外に運び出してしまえばあとは僕らの馬車に乗せてこの街から逃げおおせることも決して不可能ではないはずだ。しかし僕の提案にチセは難色を示した。
「ご主人様の提案はおおむね正しいと思います。しかし懸念点がないわけでもございません」
「というと」
「まず一つ。リースさんのお母さんの病状が分からない以上、運び出すのが困難な症例の場合、作戦そのものが破綻します。加えて今はあくまで可能性として感染リスクを避けている状態だと思われますが、本当に伝染する病気、または細菌の場合連れ出したとて隔離しなければならなくなります。ご主人様が会った人の口ぶりを考えると、どのような形であれ今現在は隔離状態にあると思われます。ですが今の我々には、隔離環境を用意できるだけの準備はありません。ですのでまだ幼く、免疫も弱いコチカちゃんや、クイネちゃんが第二第三の感染者となることもあり得ます」
「な、なるほど」
「続いて二つ目です。これはあまり高くない可能性ですが。そのお店あるいはこの街そのものに高度な医療設備があるかもしれないということです。ここに訪れているのはどなたもそれ相応に身分が高い方々ばかり、そんな方々に万が一のことがあればこの街の信頼は失墜し下手をすれば、権力に押しつぶされるなんてことも考えられます。そうならないように治療設備がない・・・とは言い切れません。しかしこの街での獣人の扱いを考えると、そのような設備を獣人奴隷に対し使用するかどうかはわかりません」
だが全く使用しないとも言い切れない。そこにはやはりリースの母親が白狼族であることが関係している。彼女たちは希少な種族、それにただの獣人奴隷と違い、存在しているだけでも大金を生み出す、まさに金の生る木状態だ。そんな白狼族をみすみす死なせるなど、そう簡単にできることではないはずだ。
「ですが、万が一リースさんのお母様に対し治療設備仕様の採決が下れば、我々の作戦はやはり意味をなさなくなります」
この作戦は高度な医療設備があるという嘘を押し通すことが前提となる。だが実際にあるのはただの馬車の荷台だけ、高度な技術を持っている医師がいるものの設備や資金といった面では圧倒的にギルドに劣る。
「・・・ごめん、すこし無鉄砲すぎた」
「いえ、この広大な街の中から見つけ出せただけでも戦果としては十分です。ですが作戦については実行の有無も含めて改めて話し合う必要がありそうですね」
「そうだね、ありがとうチセ」
「いえ、私はあくまで医師として提言をしたまでです」
正直彼女には僕らの専属医師として以上の働きをしてもらっている。だからいつかそんな彼女に報いられるような、大きな人物にならなければとチセを見ているとつくづく思った。




