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 ドンドンとドアを叩く大きな音で目が覚めた。

 

 机にうつ伏していたアーシャは本を読むこと無くいつの間にか眠っていたようだ。

 扉を叩く音に驚いて慌てて起き上がった。


「姫様ー!いますか?」


 騎士団長の部下の声が聞こえて、アーシャはドアに向かいつつ答えた。


「居るわよ~」


「良かった。図書室のドアが開かないんすよ」


 ドアの向こう側に居る騎士がアーシャの声を聞いて安心しながらもドアを開けようと試みているらしくギシギシと音を立てている。


「まぁ、どうしたのかしら。立てつけが悪いとか?」


 アーシャも内側から押してみるが扉はギシギシいうばかりで開かない。


「なんでしょうねー。扉が壊れているんですかね。ジークさんから姫様の様子を見てきてほしいと言われて来たんですけれど、これヤバいですよね。僕ちょっと報告してきます」


 若い騎士はそう言うとバタバタと去っていく足音が聞こえる。

 アーシャは何度か扉を開けようとそっと押してみるがやはり開かない。


「困ったわね。窓から外に出ようにもここは2階だし……」


 そろそろ昼になりそうな時間だ。

 アーシャは空腹を感じると同時に尿意も襲ってくる。


「本当に困ったわね。トイレに行きたくなってきたわ……」


 ドアが開かないとトイレにも行かれない。

 トイレに行かれない環境だと思うと、トイレに行きたくなってくる。

 どうにもならない状況に尿意を紛らわそうとその場で足踏みをしてみるが収まりそうもない。


「あー困った!何とか開かないかしら!」


 先ほどは何の問題もなくドアは開いたのだから、きっと立てつけが悪いからだろうと力いっぱいドアを叩いた。

 ギシギシと音を立てるばかりでやはり扉は開かない。


「なんなの!この扉!」


 イライラしながらアーシャは力いっぱい両手でドアを叩いた。

 アーシャが叩いた扉は大きな爆発音を立てへし曲がり廊下へと落ちる。

 

「どうした?爆発したような音がしたぞ」


 音を聞きつけたのか、騎士団長の野太い声とともに数人の騎士が図書室の前へと駆けつけてきた。

 廊下には図書室の扉がへし曲がった状態で落ちている。


「アーシャ姫、無事か?」


 へし曲がった扉を見て駆けつけた騎士達は呆然としている。

 その騎士達をかき分けて、ジークがアーシャの元へ駆けつけた。


「一体何があったんだ?図書室の扉が壊れて開かないと言っていたが……」


 握りこぶしを上げたままのアーシャと廊下に落ちているへし曲がった扉を交互に見てジークは呟いた。

 

 「ご、ごめんなさい。ドアが開かないから力いっぱい叩いたらこうなっちやったのよ」


 手を上げたままの体制でアーシャが泣きそうになりながら言うと、集まっていた騎士達がゆっくりと頷いた。


「なるほど。アーシャ姫様が扉を壊したんだ」


「壊したのは謝るけれど本当に開かなかったのよ。緊急事態で……」


 口ごもるアーシャにジークが心配そうに顔を覗き込む。


「緊急事態?何かあったのか?」


「トイレに行きたくて!ごめんなさい~!」


 アーシャは謝るとジークを押しのけてトイレへと走った。

 みんなの前で恥ずかしい気持ちもあったが今はそんなことを言っている場合ではない。

 本当の緊急事態に走るアーシャの耳にジークの笑い声が聞こえてきた。

 



「で、アーシャ姫がトイレに行っている間調べた結果だが。ドアが開かないように細工がされていた。ご丁寧なことにドアに釘を打って開かないようにしていたんだな」


 アーシャの部屋に戻り、ソファーにふんぞり返って座っている騎士団長が数本の釘を手のひらに乗せて転がしている。


「アーシャ姫を閉じ込めようとしていたものが居るという事か?」


 騎士団長の隣に座っているジークがじっと釘を見つめながら言う。


「何か異変は無かったのか?トンカチで叩くような音が聞こえたとか、誰か姿を見たとか」


 騎士団長が聞いてくるがアーシャは恥ずかしさのあまり俯いたまま首を振った。


「見ていないわ。私、ジークと別れた後すぐ寝てしまったから。騎士がドアを叩くまで全く起きなかったの」


 アーシャの言葉に騎士団長が大きな声で笑った。


「なるほど。仕掛けは簡単だから多分少し困らせるようとしただけかもしれんな」


 たいしたことではないように言う騎士団長にジークは顔を顰めた。


「そもそも姫が誰かに閉じ込められる事自体大きな事件だと思うが。犯人を捜さないのか?」


「探すよ。だが見つからんだろうね。俺の見立てでは、シャーロットの取り巻き辺りじゃねぇかと思う」


 騎士団長が断言するが、アーシャは首を傾げた。


「どうして?今まで嫌味は言われたけれどこんなあからっさまな嫌がらせはされなかったわよ」


「そりゃ、イケメンのジークが欲しいからだ。アーシャ姫にジークが護衛騎士になって悔しい!嫌がらせしてやる!ってあの嬢ちゃんなら思うだろう」


「バカバカしい」


 鼻で笑うジークを騎士団長は薄眼で見る。


「あの嬢ちゃんは、すこーしばかり幼稚なんだよ。俺達が想像できないようなことをしてくるんだ。そしてお金に物を言わせて侍女なんかに嫌がらせを命令するんだ。間違いない」


「もし騎士団長のいう事が本当ならば早く処分するべきだと思うが」


 険しい顔をしているジークに騎士団長は頷きながら腕を組んだ。


「そうだな。ただ、馬鹿なのにあいつらは証拠を残さないんだ。ドウラン兄ちゃんも証拠を掴んで城から追い出したいようだがなぁ。上手くいかないんだよ」



「早く田舎に帰りたい。図書室のドアを壊してしまったし、また怪力って言われるの嫌だわ」


 自分の怪力をジークに見られたことが恥ずかしくてアーシャはため息をついた。

 普通の女性のように過ごせると思っていたのに、怪力を見せつけるようなことをしてしまったと落ち込んでくる。


「見事な力だったな」


 関心するジークにアーシャは顔を伏せた。


「恥ずかしい。私、もっと可愛らしい女性になりたいのに……」


 ますます落ち込むアーシャにジークは軽く微笑んだ。


「力が強い事はアーシャ姫の取柄だろう。そんなに落ち込むことは無いだろう」


「だって、また噂されるわ」


「言いたい奴には言わせておけばいいだろう」


 ジークはそう言ってくれるがアーシャはため息をついた。


(ジークはきっと私の事呆れているわね。ドアを壊すような怪力なんて女として見てくれないわ)


 アーシャはますます落ち込んだ。




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