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「おはようございます」
自室で朝食を済ませたのを見計らってジークがやって来た。
昨日と変わらず、黒い他国の騎士服に身を包んでいるジークだが不思議と城に居ても違和感が無い。
昔から城に居たかのような雰囲気だ。
「おはよう。今日はお兄様と会う予定なのよ」
自室の隅に用意された小さなテーブルでお茶を飲んでいるアーシャを見てジークは軽く眉を上げた。
「机が小さいな」
「そう?城に住むつもりないからこれで今は十分よ」
「アーシャ姫がそれでいいのならいいが……」
渋い顔をしているジークにアーシャは明るく笑う。
「どこの王室もこんな感じでしょ?一家で長い机て食べるなんて、そんな物語みたいな一家いるかしら?そう言えば昔は家族て食べていたような気がするわ」
二人目の妻が来るまでは確かに一家でご飯を食べていた記憶が蘇りアーシャは天井を見上げた。
そんなアーシャにジークは肩をすくめる。
「そろそろ兄上様と面会の時間だ」
「そうね。お兄様も忙しいから会うのに時間を守らないといけないのは面倒ねぇ。お父様が倒れてからずっとそうよ。昔は気楽に会ったり遊んだりしていたのに寂しいわね」
部屋のドアをジークが開けて待っててくれている。
廊下を出ると、忙しそうに歩いている侍女がアーシャに軽く会釈をしながらもじっと見つめてくる。
他にも騎士や侍女たちの視線を感じてアーシャは隣を歩く背の高い騎士を見上げた。
「噂の的ね。たまに帰って来るだけだから珍しいみたい」
「俺も見られているようだが」
無表情に言うジークにアーシャは頷いた。
「そりゃ他国の騎士様だし、ジークはものすごく綺麗な顔をしているから注目されるのは当たり前じゃない」
「それだけはっきりと言われるのは初めてだな」
隠さず言うアーシャにジークの表情が緩んだ。
「だって、城の騎士達はを見てみてよ。ジークほど綺麗な人居ないわよ。それにきっとジークは剣の腕も確かで仕事ができるだろうと思えば女性の注目を集めるわよ。隊長なんて、私が生まれた時から坊主頭で巨体筋肉質で下品なんですもの。あまり女性の憧れとは言えないわよね」
「ピエール殿は確かに大な体をしているな」
アーシャはあたりを見回してジークに首を振った。
「その名前を言ったラダメよ。隊長の本名を本人の前で言ったら最後よ」
「ピエール殿の何がいけないんだ」
「その名前を気に入っていないからよ。ピエールなんて軟弱な名前自分に似合わないと思っているの。もし、本名で呼んだらぶっ飛ばされるわよ。私、ピエール隊長って呼んだ新人騎士が殴られて2メートル飛んだのを数人見たわ」
「……気を付けよう」
ジークが頷くのを見てアーシャも頷いた。
「このお城で働くとき一番初めに教えられることよ」
ジークと並んで歩いていると、黄色い悲鳴が聞こえてきた。
嫌な感じがしつつアーシャは視線を向ける。
廊下の曲がり角に黄色い声を上げている青いドレスを着た少女が立っていた。
思い出すのも嫌な奴がいるとアーシャは顔を顰める。
「第二夫人の娘シャーロットだわ」
ジークにだけ聞こえるようにアーシャは言った。
シャーロットは金色の長い髪の毛を見事にカールをして、まだ16歳だというのに濃い目の化粧をしている。
ジークを見つめながらズンズンと近づいてくる。
「凄いカッコいい人が居るわ!私の護衛騎士になりなさい!」
ジークを見つめながらシャーロットが命令口調で言う。
挨拶をするわけでもなく、アーシャを居ないように振舞うシャーロットの失礼な態度にさすがのジークも驚いて眉をひそめた。
「俺はアーシャ姫の護衛を任されている。そしてこの国の所属騎士で無いから無理ですね」
興味無さそうに言うジークにシャーロットは舌打ちをした。
「私に命令されたら二つ返事で了承しなさいよ」
「だから無理だと言っている。これ以上この話を持ち出すようならドウラン王と我が国にも通報し問題にするが……」
「面倒ね。いいわ、お母さまにお願いするから」
吐き捨てるように言ってギロリとアーシャを睨みつけると早歩きで去って行った。
その後を、シャーロットのお気に入りの侍女数人がついて行く。
侍女達はアーシャの太い二の腕を見て笑いをかみ殺しながらお互い目配せをして嫌感じだ。
「見た?あの太い腕。噂通り太姫ね」
「違うわよ。怪力姫って言われているわよ」
クスクス笑いながら侍女達が言っているのが聞こえてくる。
「嫌感じ!私は太い腕を気にしているのに!」
小さく呟くアーシャをちらりと見てジークはしみじみと言った。
「一瞬で気が合わないやつだとわかる人物に久々に会ったな」
アーシャは肩をすくめた。
「本当に話が通じないというか常識が無いのよ。私が田舎に引きこもるのもわかるでしょう?」
「そうだな」
「ジークはあんなに常識が無い人を他に知っているの?あ、シャーロットの母親は抜いてね」
早くシャーロットから距離を取ろうと歩きながらアーシャは言った。
ジークもアーシャの横を歩きながら頷く。
「女盗賊のジェリーエンがあんな感じだな。全く話が通じない人間だ」
「女盗賊ですって?」
そんな人を初めて聞いたとアーシャの興味が湧いてくる。
太い腕を馬鹿にされた嫌な気分が無くなり女盗賊の事が気になる。
「知らないのか……。各国を渡って金になりそうな物を盗んだり、依頼があれば集団で殺しもするような奴らだ。その女盗賊とやり合うことがあって目を付けられている」
「そうなのね。ジークは目立つから仕方ないわね。顔がいいって言うのも大変なのね。まぁ、私も人より腕が太いから奇異な目で見られるから嫌な気持ちはわかる気がするわ」
「女盗賊とは二度と会いたくない。それと同じぐらいシャーロット姫は苦手だ」
「私もそれは一緒よ。半分でも血が繋がっていると思うとゾッとするわね」
アーシャはそう言って兄の待つ部屋の前で立ち止まった。




