21
食欲が無いと言いつつも軽食を完食したアーシャがボーっとしているとミナが慌てた様子で部屋に入って来た。
「姫様、大変ですよ!ジーク殿を含めた騎士数人が女盗賊に拉致されたらしいです!」
息を切らしながら言うミナにアーシャは驚いて立ち上がった。
「ジークが?」
「父が言っていたので確かです!」
「隊長の所に確認してみるわ」
部屋を飛び出したアーシャに続いてミナも必死についてく。
夜になり、薄暗い廊下を走り騎士団長室へと向かう。
ノックもせずにドアを開けて部屋に飛び込む。
騎士達は騎士団長を中心に机の上に広げた地図を見つめていた。
「姫様、情報早いですね」
「聞いたわ!ジークが女盗賊に拉致されたんですって?」
アーシャは無理やり騎士団長の隣に座ると地図を覗き込んだ。
城から山を越え、海までの道に大きな赤い丸印が付いている。
「ジークはここに居るってこと?」
アーシャが聞くと騎士団長は頷いた。
「そうだ」
「ジークは国に帰ったのではないの?」
ジークが拉致されている場所と反対方向になる場所にアーシャは疑問を持つ。
「国へ帰る前に、女盗賊のアジトが判明したから偵察に行くと言っていた。見つかっちまったんだよなぁ、女盗賊に」
騎士団長が言うとアーシャは首を傾げる。
「そもそもジークは女盗賊を追っていたようだけれど何があったのかしら」
「女盗賊のリーダがジークに一方的に惚れていて自分のものにしたいとちょっかいかけていたようなんだわ。それでジークは逃げ回りながらも女盗賊を法的に捕まえようとしていたようだぜ」
「そ、そうなの」
ジークがカッコいい事は誰よりも知っているがアーシャは思いもしない女盗賊とジークの関係に驚きながらも頷く。
様子をじっと見ている騎士達にアーシャは気を取り直して軽く微笑んだ。
「それで、助けに行くの?そもそも本当にジークはここに居るの?」
「ジークと一緒に行動していた騎士が何とか逃げ出して助けを求めに来たから間違いねぇ。ジークの国の騎士達より俺達が動いた方が早いから今から救出作戦と女盗賊をとっつ構えに行く所だ」
騎士団長がそう言うとアーシャは頷いて立ち上がった。
「私も行くわ」
「はぁ?」
騎士達が同時に何を言っているんだと眉をひそめる中、騎士団長だけが大きく頷く。
「いいんじゃねぇか!」
「いやいや。ジークさんが捕まったってことは相当ヤバイってことですよ。アーシャ姫を連れて行くなんてドウラン様になんて言うんですか」
アーシャが同行しないように慌てて言う副団長の後ろからドウランが声をかけた。
「いいんじゃないか」
「ドウラン様!」
いるはずがない人物の突然の訪問に騎士達は一斉に立ち上がって軽く敬礼をする。
ドウランはアーシャを見て頷くと騎士達を見回した。
「マーガレットが申し訳ないと言っていてそれを伝えてほしいと。自分の国の騎士が迷惑をかけてしまってと落ち込んでいて自分が討伐に行くと聞かなくてな」
「身重のマーガレット様こそ来られたら困りますね」
アーシャは聞き間違えかと真面目に答える副団長を見る。
「身重って赤ちゃんがいるってこと?」
「まぁそうなりますね。知らなかったんですか?」
当たり前のように言われてアーシャはそんな大切なことをなぜ教えてくれなかったのかと兄を睨みつけた。
ドウランは咳払いをする。
「言い忘れていた。いろいろ大変だったからな」
「身重だから結婚を急いだんですよね。超極秘の話ですけれど」
ヘラヘラ笑う若い騎士をドウランは黙るように見つめてもう一度咳払いをした。
「まぁとにかく、ジーク達を救出してほしいとの事だ」
「もちろん頑張りますが、アーシャ姫は連れて行かれないですよね」
副団長が真面目に言うと、騎士団長は歯を見せて笑う。
「いや、連れて行く。アーシャ姫がやる気になっているんだ!なぁ姫さん」
騎士団長に背中を思いっきり叩かれてアーシャは咳き込みながらも頷く。
「行くわ。ジークを助ける手助けがしたい。それに、私の負わせた怪我のせいで拉致されたのかもしれないし」
「あー、ありそうですね。アーシャ姫に投げられてジークさん肩痛めていましたね……」
アーシャの怪力を知っている副団長は頷くのを見て騎士団長は下品に笑って手を叩いた。
「決まりだな。それになぁ、後悔無く行動することよ。エリザベス妃を失った時のあの喪失感を味わうのはもうこりごりだ!」
「私も、もう後悔したくない。今度こそちゃんとやるわ」
決意を込めて言うアーシャの頭をドウランが近づいてきて撫でた。
「ちゃんとしようとしなくていい、その時に出来る精いっぱいの事をして後悔ないようにな。無事に帰って来い」
優しい瞳で見られてアーシャは頷いた。
「ありがとう。お兄様。弓を取ってくるわ!」
走って自室へと戻り、部屋の隅に立てかけてある弓を取った。
毎日手入れをしている弓はいつでも使えるような状態になっている。
母親が彫ってくれた弓柄を撫でた。
「ジークを助けるのに力を貸してね」
弓の出番があるか分からないが今度は絶対に怖気づいたりしない。
アーシャは決意をして弓を握りしめた。
「姫様、持ってきましたよ」
弓の調子を確かめているとミナが部屋に飛び込んできた。
抱えるようにして持ってきてた騎士の服を広げる。
「女性騎士の方たちから借りてきましたけれど、入りますかね?男性の隊服が良かったですか?」
ミナはアーシャの太い腕と持って来た紺色の隊服を広げて見比べている。
デザインは男性用と変わりないが、できれば女性用の騎士服を着たいとアーシャは隊服を取り上げた。
「失礼ね!入るわよ」
「わかりませんわよ。女性騎士の方も姫様ほど腕の太い方は見た事がありませんもの」
そう言いながらアーシャが着替えるのを手伝う。
腕周りはきついものの何とか隊服を着ることが出来た。
鏡に映る自分の姿を見て口を尖らす。
「男みたいじゃないかしら?この姿でジークに見られるの嫌だわ。もっと女性らしいドレス姿に着替えようかしら」
「馬鹿なことを……。ドレス姿で何かあった時に逃げ遅れますわよ。馬にも乗りづらいでしょうし、第一陣として同行するなら動きやすい服でないと父に怒られますよ」
「確かにそうね」
騎士団長の怒りの声が聞こえてくる気がしてアーシャは仕方なく頷いた。
紺色の騎士服にブーツを履いて自らの頬を叩く。
「よし、行ってきます!弓の練習をしていないけれど大丈夫かしら」
心配するアーシャの身なりを整えながらミナは頷く。
「大丈夫ですよ。アーシャ様は生まれた時から父に扱かれたじゃないですか。多少練習をしていなくても体が覚えていますよ」
皆に励まされてアーシャは頷いた。




