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 「お兄様。せっかくの結婚式のお披露目なのにごめんなさい」


 母親が死んだ真実を聞いてから止まらない涙をハンカチで拭いながらアーシャは頭を下げた。

 

 結婚を祝うパーティーは後日改めて行うことになった。

 別室に移ったアーシャはあふれ出る涙を拭いながらもテーブルの上に用意されたお茶に手を伸ばす。

 正面に座るドウランとマーガレットはだいぶ気持ちが落ち着いてきたアーシャを見てお互い目配せをした。


「まさか会場でマレーンの罪を暴くつもりはなかったんだ。あいつらの悪事は薄々気づいていたが証拠をつかむことが出来たのがつい最近でな。アーシャ、驚かせてすまない」


 気を使いながら話すドウランにアーシャは首を振った。


「お兄様は優しいから、私に言わないつもりだったのでしょう?」


 ただの強盗に母が殺されたのではないとアーシャに知らせるつもりも無かったかもしれない。

 あの日から弓をもつことが出来なくなったアーシャの心の傷を誰よりも知っていて心配していた兄ドウランは目を伏せた。


「マレーンが母を殺すよう命令したことを証明できればと常に思っていた。ただ、どうやってというのが解らなかったのだ。本当に強盗が来たのかもしれない、ただの偶然だったのではないかと。偶然ではなく仕向けられたことが解ったのはつい最近だ。ジークがジェリーエン盗賊団の情報を追っていたおかげで、マレーンが奴らと関わっていることが判明した」


「ジークが?」


 アーシャに投げ飛ばされたジークは体の痛みを訴えて現在医務室で診察中だ。

 アーシャが首をかしげるとドウランの隣に座っているマーガレットが軽く笑う。


「ジークはジェリーエンとちょっといろいろあってね。動向を監視しているのよ。どうにかして検挙したいのだけれど、彼女自身は証拠を残さないらしいわよ」


「それでお母さまの事が判明したのね。ジークのおかげね。だからジークは私の護衛騎士という名目でここに来たの?」


 すっかり涙が止まったアーシャはそう言って温かいお茶を飲んだ。


「それもあるが、他にもいろいろあってだな……」


 ドウランはそう言うと咳払いをしてアーシャの顔を見る。


「アーシャに縁談がある。マーガレットの弟で第三王子なのだが……どうだろうか?」


「私に?だからジークは様子を見にこの国に来たの?王子に報告するために?」


 てっきりマーガレットが嫁いでくるのでその偵察かと思っていたがどうやらアーシャの様子も見られていたようだ。

 驚くアーシャにドウランが頷いた。


「アーシャが嫌だったら断っていいんだぞ?シャーロット達は間違いなく城から追い出されるし罪に問われるだろう。一生顔を合わせることもない。アーシャは城に居ても俺は全く構わない」


 兄の言葉にアーシャは下を向いた。


(ジークと結婚したかったけれど、とても言い出せる状況ではなくなったわ)


 第三王子を差し置いてジークと結婚させてくれと言えるはずがない。

 縁談を断ったことで、マーガレットの母国と関係性が悪くなる可能性もある。

 俯いているアーシャにドウランが優しく声をかけた。


「今答える必要はない。ただそう言う話があるということだ」


「解った。よく考えてみるわ」


 表情の暗いアーシャにマーガレットは微笑みかけた。


「悪い子じゃないのよ。私が長女で、その下に弟が3人いるんだけれどその一番下なの。だからか、”俺は王族の煩わしい仕事はしたくない”とか言って騎士に交じって働いているのよ。ちょっと変わっているのよ」


 騎士に交じっているということはジークの上司なのかもしれないとアーシャは思う。

 だからジークが偵察にきたのだろうか。


「私、力が人より少し強くて、腕も太いんですけれどそれでもいいって言ってくれるのかしら」


 心配そうに言うアーシャにマーガレットは大きく頷いた。


「大丈夫よ。ジークが実際に見に来たでしょ?この後ちゃんと手続きをしに国へ帰るって言っていたわよ」


(ジークがありのままの私を報告したら、きっとその第三王子は嫌になるかもしれないわ)


 第三王子に断られることもあると思いアーシャは頷く。


「よく考えてみるわ。あちらの返事も待たないといけないでしょうし」


「大丈夫よ」


 マーガレットがそう言って声を上げて上品に笑った。


 ドアがノックされてすぐに騎士団長が入って来た。

 その後ろからジークが右肩を摩りながら入ってくる。


「ジーク!大丈夫だった?」


 アーシャが申し訳なさそうに声を掛けるとジークは軽く手を上げる。


「骨は折れてなかった、問題なかった」


「ごめんなさい」


 アーシャが落ち込みながら謝るとジークは首を振った。


「いや。あの状況では仕方ない」


「そうだな。鍛え方が甘いんだよ!」


 騎士団長はそう言うと断りもなくアーシャの隣に乱暴に座った。

 

「ジークは軽症で良かった。シャーロットの容態は?」


 騎士団長に思いっきりぶん殴られたシャーロットは、目を覚ますことなく医務室へ運ばれていった。

 ドウランが問うと騎士団長は歯を見せて笑う。


「命に関わる怪我じゃなかった。危うく王族殺しになるところだったぜ」


 しれっと言う騎士団長に、アーシャは眉をひそめる。


「彼女たちはどうなるの?」


「きちんと裁判をして罪を償ってもらう」


 ドウランが言うと騎士団長はニヤリと笑う。


「暗殺してきてやろうか?」


 騎士団長の気遣いを感じながらもアーシャは首を振る。


「そんなことをしても生き返らないもの。あの時、お母さまを殺そうとしていた男を弓で射ることが出来なかった。お母さまが死んだのは私のせいだわ」


「人を殺めることなんて誰だって出来ない。そんなことを言ったら、あの場に居なかった俺達の罪だってある。なぜあの日、警備が薄くなっていたのか。なぜ、盗賊の侵入を許してしまったのか。俺だって毎日自問自答している」


 珍しく愁傷気味に言う騎士団長をアーシャは見上げた。

 騎士団長は優しくアーシャの頭を撫でた。


「過ぎたことを後悔したって何も変わらん。次に活かせ」


「ありがとう。隊長」


 励ましてくれている騎士団長にお礼を言ってアーシャは長く息を吐いた。

 かなりの疲労を感じて体が重くて怠くなってくる。

 アーシャの様子を見ていたジークが声をかけた。


「アーシャ姫、疲れたんじゃないか?部屋で休んだ方がいい」


「そうね。今日はいろいろあってかなり疲れているみたい。失礼して少し部屋で休むわ」


 アーシャが頷くと、騎士団長も頷く。


「俺だってかなり疲れているからなぁ。俺も部屋で休みてぇな」


「隊長は報告があるんじゃないの?」


 立ち上がりながらアーシャが言うとめんどくさそうに頷いた。


「アーシャ。あまり考えすぎるな」


 心配そうな兄にアーシャは頷いた。





 

 

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