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 会場内はドウランと第二王妃とのやり取りを見つめている為、気が付けば静まり返っていた。

 コソコソと話す声は聞こえるが、ドウラン達のやり取りを聞き逃すものかと注意を向けているのが解る。


「マーレン様はドレスを新調されるのに忙しくて最近父のお見舞いがおろそかになっていたようだ。その間父に妙な薬を飲ませられなくなったのでしょう。最近の父は幾分体調が良いですよ」


 静かに言うドウランにマレーンは無表情だ。

 兄の言葉にマレーンよりアーシャは驚いて声を上げた。


「お父様は病気じゃなかったの?」


「違ったようだな。この女と知り合ってから父は様子が可笑しくなっただろう?薬を盛られていたんだよ」


 ドウランはそう言うと懐から薬が包まれているだろう紙を取り出した。

 それを見たマレーンは頬を引きつらせる。


「それはどうされたのかしら?」

「まだとぼける気ですか。マレーン様取り巻きの侍女が持っていましたよ。父のお茶にこの薬を入れるところを取り押さえました」


 ドウランが静かに言うとマレーンは視線を逸らせた。


「知らないわよ」


「薬は他国の女盗賊ジェリーエンから定期的に買っているようですね。その証拠もありますが今ここで話すことでもないでしょう。あとでお伺いしますよ」


「冗談じゃないわよ。私は関係ないわ」


 マレーンはそう言うと立ち去ろうとする。

 シャーロットは慌ててマレーンの腕を掴んだ。


「ちょっと待ってお母さま!私たちが悪いことをしたみたいで嫌な感じだわ。ドウランはお母さまより偉そうにしているし気に入らないわ」


 場にそぐわないシャーロットの言葉に流石にマレーンは注意をする。


「静かにしなさい。さっさと会場から出るわよ」


 小声で言うマレーンにシャーロットは大きく首を振ってマーガレットを指さした。


「嫌よ。この女が着飾って私より偉そうにしているのが気に入らないわ!」


「偉そうなんじゃなくて、実際あなたより偉いのよ。私は王の妻なの。王妃様と呼びなさいよ」


 会場に居る来賓客に聞こえないぐらいの声でマーガレットが地を這うような声をでシャーロットに言った。

 それを見ていたジークが額に手を当てて首を振っている。


「あー、最悪だ。あの人を怒らせたらぶん殴られるぞ」

「流石にそこまでしないでしょう?」


 アーシャもそう言いつつ、今にも手が出そうなマーガレットと状況が解っていないシャーロットを見つめる。


「ジークを私の護衛騎士にしてくれたら私に無礼を働いたことは許してあげるわ。ジークを私に頂戴な。アンタの所の騎士なんでしょう?」


 ジークに色目を使いながら言うジャーロットにマーガレットは頬をヒクヒクさせながら悪魔のような笑みを浮かべた。


「残念でした。ジークは誰かの護衛騎士にはならないのよ。あいつは他国の騎士わかる?無理なのよお嬢ちゃん」


「だって、昨日ジークが私の護衛騎士になってもいいって言ったじゃない。約束したでしょ?」


 満面の笑みを浮かべて見つめてくるシャーロットにジークは肩をすくめた。


「ジークがそんな約束を?」


 やはり昨日、二人が仲良く歩いていたのは二人が親密な約束していたのかとアーシャはショックを受けつつジークを見上げた。

 ジークはアーシャを見つめて肩をもう一度すくめる。


「そうでもしないとジャーロット嬢は話してくれないから仕方なく。俺が護衛騎士になるか考慮するとは言ったがなるとは断言していない」


「考慮って何?」


 無垢な顔で聞いてくるシャーロットに後ろでニヤニヤと話を聞いていた騎士団長が答えた。


「よく考えてみるってことだよお嬢ちゃん。ジークを手に入れたと思っただろう?残念だったな。無理なんだよお前には。でもそのおかげでペラペラと話してくれてありがとうよ」


 騎士団長はそう言うとシャーロットとマレーンの肩を叩いた。


「触らないでよ。熊みたいな図体して気持ち悪いのよ」


 シャーロットの言葉に騎士団長はムッとする。


「失礼な奴だ。お前の我儘も、もうお終いだよ。日々取り巻きの連中が減っていることにお前は気付かなかっただろう?尋問をしてみんなお前と第二夫人に命令されて、王様に薬を盛ったりアーシャ姫に嫌がらせをしたことを話してくれたぜ。それも全部お前と第二夫人の命令でな」


「熊男が偉そうに!私が一番偉いのよ!お母さま、この人も殺しちゃってよ。あの女も、この人も殺してよ」


 自分の腕を掴んでいる騎士団長を指さした後、シャーロットは鬼のような形相でマーガレットとアーシャを順番に指をさしていく。


「殺しちゃってって……なんてことを言うの……」


 大声を出して悪態をつくシャーロットの言葉にアーシャは驚く。

 まるで前にも人を殺したことがあるようないい方にアーシャの呼吸が荒くなる。


「シャーロット!黙りなさい!」


 これ以上話すなとマレーンが叱るがシャーロットは怒られたことが気に食わないのか母親を睨みつけた。


「お母さまだって邪魔な人はみんな殺したじゃない!だから王妃になって豪華な暮らしが出来るようになったんじゃない!私だって邪魔な人はいらないわ!お母さまだけずるいわ!」


「それは、私のお母さまを殺したということ?」


 かすれる声でアーシャが聞くと、シャーロットは不敵に笑った。


「そうよ。お母さまが盗賊にお願いしてやったのよ。お金が沢山かかったって言ってたけれど!今だってお金が沢山あるんだからこいつらをやっちゃいましょうよ!」


 嬉しそうに言うシャーロットの言葉を聞かせまいとジークが慌ててアーシャの耳を塞いだ。

 それでもシャーロットの言葉は良く聞こえた。


「盗賊にお願いして?」


 呆然とするアーシャの脳裏にあの日の出来事が蘇る。


 盗賊に囲まれて、殺された母。

 弓を射ることが出来なかった弱い自分。


 母を殺すよう命令したのは目の前にいるシャーロットとマレーンなのだ。

 嬉しそうに話すシャーロットに怒りを感じてアーシャの瞳から涙が零れ落ちる。


「シャーロット!許せない!」


 ボタボタと涙を流しながら体を震わせてアーシャは小さく呟く。

 喉が張り付いて怒りと悲しみで声が上手く出ない。


「ウフフッ。面白い顔!」


 怒りに震えるアーシャを指さして笑うシャーロットに怒りが頂点になりアーシャは握った拳を振り上げた。


「ヤバイ!アーシャ姫を止めろ!」


 周りを囲んでいた護衛騎士達が叫び、ジークはとっさにアーシャを抱きしめた。


「はなして!」


 怒りのあまりありったけの力でジークを振りほどくと彼の体は吹っ飛ばされて壁へ叩きつけられた。

 強い力で叩きつけられたジークを見て、護衛騎士達はアーシャの前に出るのを躊躇する。

 それを見て騎士団長が舌打ちをしながらアーシャの後ろに回り込むと両手を掴んだ。


「アーシャ姫、お前がぶん殴ったら嬢ちゃん死んじゃうぜ。人殺しになっちゃうだろう!」


「それでもかまわない!お母さまを殺したのは許せない」


 ジークも痛みを堪えながら起き上がるとアーシャの前に立つ。


「ダメだ。アーシャ姫が手を下すのはダメだ!騎士団長や兄上達がきちんと裁くから!我慢してくれ」


 壁に叩きつけられてどこか痛めたのだろう、痛みを堪えているジークの訴えにアーシャは少し冷静になる。

 もしここでシャーロットを殴ってしまったら、兄もジークにも迷惑をかけることになる。

 必死なジークの顔を見てアーシャの怒りが少し冷めてくる。

 

「わかったわ」


 振り上げたこぶしをゆっくりとアーシャは降ろすと、ジークはホッとして息を吐いた。


「辛いのは分かるが、殴るのはダメだ。アーシャ姫の力では本当に殺しかねないからな」

 

 苦笑してジークはアーシャの頭を撫でて自分の胸へ引き寄せた。

 暖かいジークの体温を感じてあふれ出る涙と悔しさを堪えるようにジークの胸に顔を埋める。

 

 声を殺してジークの胸で泣いているアーシャを見て騎士団長も息を吐いた。


「全く、俺じゃないとアーシャ姫を取り押さえられないとかお前ら怠けすぎだろう!」


「いや、そう言う問題じゃないですよ」


 見守っていた騎士が呟いた。

 

 アーシャの力で殴られそうになったジャーロットも身の危険から解放されて鼻で笑う。


「化け物二人ね」


「誰が化け物だって?お前の根性の方がよっぽど化け物だろうが。次に熊呼ばわりしたら俺がブッ叩くからな」


 騎士団長は睨みつけながら言うと、シャーロットを連行しようと手を伸ばした。


「熊以外で呼び名なんてあるの?あぁ、ピエールって名前だっけ?あんた」


 バカにしたように言うシャーロットに、騎士団長がゆっくりと拳を振り上げる。


「俺の名前を呼んだのはてぇめぇか!二度とその名前を呼べないようにしてやるからなぁ!」


 そう言うとシャーロットを力いっぱいぶん殴った。

 声を上げる間もなく殴られたシャーロットの体が宙を舞い机の上に落ちた。


 ガシャーンという食器が床に落ちる音が会場に鳴り響く。

 シーンと静まり返っている会場内で騎士達が呟いた。


「騎士団長の名前を呼んだらダメだって……。誰か教えてやらなかったのかよ」


「城に来たら一番最初に教わることだぜ……」


「やべぇ。死んだか?」


 正気に戻った騎士団長は慌てて机の上に横たわっているシャーロットに駆け寄った。

 恐ろしくて誰も動けず見守っていると、騎士団長はシャーロットの様子を確認して安堵する。


「気を失っているだけだ。息はしている!アーシャ姫に言った手前、俺が殺しちゃったらヤバかったな」


そう言ってガッハッハと下品に笑った。





 

 

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