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アーシャとジークが大ホールに到着するとすでに会場は沢山の人で賑わっていた。
後ろから付いてきていた騎士団長の姿はいつの間にか居なくなっていて、アーシャがどこに言ったのかと視線を彷徨わせているとジークに背中を押される。
「騎士団長は兄上殿を迎えに行った。俺達は奥でしばらくやり過ごそう、面倒な挨拶は嫌だろう?」
ジークに言われてアーシャは頷く。
ただでさえ田舎に引きこもっている姫として珍しがられているので出来ればあまり人と関わり合いたくない。
アーシャと懇意にしたい貴族も居ないだろう。
会場の奥に壇上があり、その横でドウランの護衛騎士数人が手を振っている。
ジークの背中に隠れるよう、護衛騎士達の元へ向かった。
「おっ、姫様随分綺麗なドレス着ていますね。お似合いですよ」
軽口を叩く副団長にアーシャは顔を顰めた。
「こんなところで暇そうにしていていいの?」
「ドウラン様達がお出ましになられたら警備しますよ。俺達それまで自由なんですよ」
そう言いつつも暇そうにしていた彼らはアーシャの周りを囲んでくれた。
「これで変な奴が話しかけてくることも無いでしょう。どうせアーシャ姫はこのパーティーが終わったら田舎に引っ込んむんでしょ」
騎士の一人に言われてアーシャは頷く。
「城に居る意味も無いし。シャーロット達と付き合うのも疲れたわ」
「まだ図書室の件も片付いていないですしね」
騎士の一人が言うと、ジークは口の端を上げて笑う。
「その件についてはいい情報を掴んでいる」
小声で言うジークに騎士達の視線が集まった。
「一体どんな?」
アーシャが聞くとジークは微笑んだまま答えようとしない。
教えてくれないのかとガッカリしているとシャーロットがお気に入りの侍女を連れて会場に入って来た。
「嫌な奴が来た」
騎士の一人が呟くとジークを含めた全員が頷く。
シャーロットは真っ赤なドレスにカールした金色の髪の毛を真っ赤な大きなリボンでまとめている。
ドレスにはダイヤの様な宝石が縫い付けてあり光に当たりギラギラと輝いている。
「あれ、本物のダイヤかしら」
あれがもしダイヤであればどれだけのお金がかかっているのだろうかとアーシャは頭を抱えたくなりながら誰ともなく聞いた。
答えたのは副団長だ。
「本物ですよ。他国のお客様が来るのだからいいドレスを着たいって大騒ぎして、第二夫人と一緒にドレスを新調されました。ほら、第二夫人のドレスもギラギラしているでしょう」
呆れたように言う副団長はシャーロットの後ろから歩いてくる第二夫人マレーンに視線を向ける。
アーシャも視線を向けると、シャーロットと同じぐらいギラギラと輝いたドレスを着ているマレーンが歩いているのが見えた。
「呆れたわ」
「まったくだ」
ジークが同意してくれたことでアーシャは少しだけホッとする。
昨日、シャーロットと仲良く歩いていたのはたまたま会って話していただけだろう。
しばらく来賓客と談笑しているシャーロット達を眺めていると、ドウランとマーガレットが二人揃って壇上に上がった。
壇上の後ろ壁際にひときわ大きな体をした騎士団長がつまらなそうな顔をして立っている。
真っ白なマーガレットのドレスよりシャーロットの真っ赤なドレスの方が豪華で目立っているように感じてアーシャはため息をついた。
(マーガレット様が可愛そうだわ)
ドウランとマーガレットが挨拶をしている間、シャーロットは自分のドレスの方が豪華だと思ったのか勝ち誇った顔をしている。
シャーロットとマレーンのを取り囲んでいるお気に入りの侍女や貴族の女性数人はコソコソとアーシャとマーガレットを見て噂話をしているのが見えた。
「どうせ私の悪口を言っているのね」
小さく言うとジークが鼻で笑った。
「言われっぱなしでいいのか?騎士団長のように俺の悪口を言うやつはぶっ飛ばすって言ってみたら?」
「言えるわけないでしょ。面倒なことになるのが解り切っているわよ」
アーシャが言うとジークはもっともだと頷く。
「下手したら殺し合いの喧嘩になるな。それをするのが、マーガレット様なんだよ」
ジークが困ったように言うと壇上の上のマーガレットは不敵な笑みを浮かべてシャーロットを見つめている。
明らかに喧嘩を吹っかけているような様子にジークは嫌そうに目を逸らした。
「きっと喧嘩するな。それより前に俺が喧嘩するかもしれないが……」
「ジークがシャーロットと喧嘩するの?」
どうしてだろうかと首を傾げるがジークは答えなかった。
一通り挨拶をドウランが終えると会場が拍手に包まれた。
アーシャも慌てて手を叩く。
ドウランは手を上げて答えるとアーシャ達の元へとやって来た。
「お兄様、マーガレット様。おめでとうございます」
アーシャが畏まって頭を下げるとドウランは軽く頷いた。
「ありがとう」
マーガレットもドウランの横に立ってニコニコしている。
幸せだという気持ちがマーガレットからあふれ出ていてアーシャは心から安堵する。
(お兄様を選んだというのは本当だったみたい。お兄様も嬉しそうで良かったわ)
いつもムスッとしているドウランだが、嬉しくて仕方ないようだ。
ドウランの機嫌が最高に良さそうなことがわかりアーシャも嬉しくなる。
「嫌な奴が来た」
アーシャの後ろに立っていたジークが小さく呟いた。
ドウランを含めた一同が視線を向けると満面の笑みを浮かべたシャーロットとマレーン親子がやって来た。
祝いの挨拶に来たのかと思ったがシャーロットは嫌味な笑みを浮かべてマーガレットを値踏みするように見つめる。
「私の方が美しさも、ドレスも勝っているわね」
そう言って意地悪く笑うシャーロットをマーガレットは頬を引きつらせながら睨みつけた。
「は?貴女誰に向かって口を利いているのかしら?」
「その言葉そっくりお返しするわ。私は、ベルバルン王の娘よ」
誇らしげに言うシャーロットにマーガレットは鼻で笑った。
「それが何か?」
バカにされたように言われてシャーロットは偉そうに鼻をツンと上げてマーガレットを馬鹿にしたように見下ろす。
「何かですって?ここで一番偉いのが王なのその娘なのよ。あとから来た人のあなたより私が偉いの」
「だから何?あぁそうだ、言っておきますけれど貴方のお父様は王を降りまして、今私の夫がこの国の王になりましたから」
「どういう事?」
軽く眉をひそめるシャーロットにアーシャも首を傾げる。
嫌そうな顔をして様子を見ていたドウランがシャーロットの前に出てきた。
「父は俺に王位を譲るとご判断された。本日すべての手続きが終了し、正式に俺が王位を継ぐことになった」
「嘘よ。ベルバルン王はまだご健在だけれどとても話せる状態ではないでしょう。本人の意思なしで王位をむしり取ったの?」
シャーロットを押しのけるようにして後ろに居た第二王妃マレーンがドウランの前に立った。
ドウランとマレーンがにらみ合っているのをアーシャはハラハラしながら見つめる。




