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パーティ会場へ向かうはずがジークはその手前で曲がる。
ジークに軽く背を押されてアーシャは不思議に思いながらついて行く。
「会場だとゆっくり話す暇もないだろうからマーガレット様が挨拶をしたいそうだ」
「えっ。突然ね」
心の準備が出来ていないが、ジークに連れられて行くと会場のすぐ隣の控室の前にジークと同じ黒い隊服を着た騎士が立っていた。
ジークを見ると軽く笑う。
「正装が良くお似合いですね。ジーク様」
敬礼をしながらいう騎士にジークは顔を顰めた。
「余計なことをいうなよ。マーガレット様はいらっしゃるか?」
「妹君に会うのを楽しみお待ちですよ」
アーシャは騎士にチラリと見られてジークの背に隠れた。
「なぜ隠れるんだ?」
アーシャの不可解な行動にジークは背中に隠れたアーシャを振り返った。
「だって、こんな腕の太い女性を見た事ないでしょ?きっとジークの国でも噂されるわ」
小さく言うアーシャにジークは肩をすくめて騎士に視線を向けた。
「そんなことを言うはずないだろう。なぁ?」
ジークに同意を求められてドアの前に立っていた騎士は背を正して頷いた。
「もちろんです!そのような酷い事は決して言いませんよ」
騎士がにこやかに笑って言うがアーシャは唇を尖らせる。
「絶対噂するもの」
「なーにをドアの前でごちゃごちゃやっているんだ!さっさと入れ。時間が押しているんだよ!」
廊下からドカドカと足音を響かせて歩いてくる騎士団長が地鳴りのような大きな声を出した。
ドアの前のを守っていた騎士は筋肉で固められている巨体な騎士団長を見上げて苦笑する。
「さすがにすごく大きな騎士団長が居たとは言いますけれど。あの騎士団長は規格外でしょう。デカすぎる」
クマのようにのしのし歩いてくる騎士団長はアーシャ達の元に来ると一同を見下ろした。
「お前ら俺の悪口を言っていただろう」
「言っていませんよ」
ジークがめんどくさそうに答えると騎士団長はギロリとアーシャを含めた一同を睨みつけた。
「いいかお前ら、俺の悪口を言ったらぶっ飛ばすからな」
騎士団長のすごみを利かせた言葉にジークはアーシャに笑いかけた。
「ほら、アーシャ姫も何か言われたら騎士団長を見習えばいい」
「そんなこと言えないわよ」
「騎士団長殿しか無理でしょうね」
見張りの騎士もひきつった笑いを浮かべている。
「いいからさっさと入れ」
騎士団長はドアを乱暴にノックすると返事を待たずに扉を開ける。
中に花嫁が居るのに自分の部屋のように入っていく騎士団長を目を丸くして見ている見張りの騎士の肩をジークは叩いた。
「あーいう人なんだ慣れろ」
「は、はぁ」
「さすがに失礼よね」
そう言い名がらアーシャも騎士団長に続いて部屋に入ると慌てたように侍女が出迎えた。
「アーシャ姫とジークがご挨拶に来た」
騎士団長がめんどくさそうに告げるとマーガレット付の侍女が頷いて奥へと案内してくれる。
広い部屋の奥に白いドレス姿の女性が座っているのが見えた。
アーシャたちが部屋に入ると、ドレス姿のマーガレットが立ち上がり笑みを浮かべる。
「まぁ、貴女がアーシャ姫?」
ジークをチラリと見てからアーシャに微笑みかけるマーガレットは知的な美人という感じだ。
黒い髪の毛に大きな黒い瞳をしている。
一見すると冷たい雰囲気があるがアーシャに微笑みかけると一瞬で冷たさが無くなった。
「はい。お初にお目にかかりますアーシャと申します」
軽く膝を折って挨拶をするアーシャにマーガレットは大きく手を広げるとギュッと抱き着いた。
「固い挨拶は置いておいて。会いたかったわ、ごめんなさいね直ぐにお会いできなくて。いろいろ忙しくて。ジークは不愛想だから大変でしょう?ちゃんと護衛騎士やっている?」
マーガレットはアーシャを抱きしめながら捲し立てるように話しだす。
「は、はい」
呆気にとられながら返事をすると、マーガレットはアーシャの顔を覗き込んだ。
「良かったわ!ジークは騎士道馬鹿みたいなところがあるじゃない?馬鹿みたいに剣の話ばかりしていなかった?」
「いえ、とても励ましてくれます」
アーシャが言うとマーガレットは信じられないというように目を見開いて大袈裟に驚いている。
「まぁぁぁ。それは凄いわ」
「マーガレット様、アーシャ姫が困っておりますよ」
大げさに驚いているマーガレットをジークがめんどくさそうに窘めた。
「そうね。これからよろしくね。私の事お姉さんって呼んでね」
「は、はい」
「それから安心して。シャーロット達の事は大体聞いているから!あんな女たちは妹でもなければ母親でもないから。もし私に何かしようものなら100倍返しにするから。アーシャ姫も何かやられたらぜひ私に言ってね。倍にしてお返しするから」
妖美な笑みを浮かべるマーガレットの言葉は嘘ではなさそうだ。
どう答えていいか困ってジークを見ると彼は肩をすくめる。
「マーガレット様も俺と同じように剣術馬鹿だから、心配する必要はない。本当に強い人だからね。ただ、何かしでかすんでないかと心配だ」
「いやねぇ。私だって何もされなければやらないわよ」
「いいや、絶対にやるね」
ジークが断言すると腕を組んで面白そうに様子を見ていた騎士団長がガッハッハッと大声で笑った。
「いやー仲がいいですなぁ」
「仲良くない」
騎士団長の言葉にジークとマーガレットが同時に答えた。
(仲がいいわね)
ジークとマーガレットの息があう雰囲気にアーシャは少し嫉妬してしまう。
ただの幼馴染にしては仲がよさそうな雰囲気だ。
「そろそろお時間ですが……」
侍女の言葉にマーガレットは頷いてアーシャとジークに手を振った。
「またパーティーでお会いしましょう。来賓が多いから話せるかしら。……めんどくさいわね」
後半は小さく呟いてマーガレットはため息をついた。
「さぁ、俺達も会場へ向かおうぜ。シャーロットと第二夫人も出てくるようだからせいぜいお気を付けくださいませ」
騎士団長がそう言うとマーガレットは鼻で笑った。
「何か言ってくるのか楽しみにしているわ」
不敵に笑うマーガレットにジークはうんざりしながらアーシャの背を押して歩き出した。
「トラブルを起こすのだけはやめてほしい」
ジークが呟くとマーガレットがギロリと睨みつける。
「私はトラブルなんて起さないわよ!」
マーガレットの怒りの声を聞きながらジークはアーシャの背を押して部屋を出た。
「解っただろ?元気な人なんだよ。あんな人がシャーロットに何かされてへこたれる人じゃない。むしろ大事にしそうで困る」
ジークの言う通りかもしれないとアーシャは頷いた。
「確かに想像していたより力強い人だったわ。あんな人がどうしてお兄様と結婚してくれたのかしら?」
どちらかというと陰気な雰囲気の兄を思い浮かべて呟くアーシャにジークは肩をすくめる。
「そればっかりは俺には判らないけれどお互い気が合ったんだろう。恋愛や結婚なんてタイミングと相性だよ」
「なるほどね」
そう言いつつも、アーシャがジークを好きになったのは言葉では言い表すことが出来ない。
(お兄様もタイミングだったのかもしれないわね)




