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 ジークが怪我をしてしまうのではないかと心配のあまりアーシャは両手を握りしめて薄目で試合を見守っている中、決着は突然訪れた。


 常人の速さではないスピードで剣を打ち合っていた二人だったが、ジークが一瞬の隙をついて剣を振り上げた。

 副団長はジークの剣を防ごうとするが一瞬遅れてしまい、副団長の剣が宙を舞って離れた場所に落ちた。

 一瞬の静けさの後、試合を見ていた騎士達が騒ぎ出す。


「副団長に勝ったやつ初めて見た!」

「団長以外で勝ったヤツいなかったよな!」


 ジークが負けるのではないかと思っていたアーシャだったが、副団長に勝ったのを見てホッと息を吐いた。

 

 落ちた剣を拾ってジークは副団長に渡すと二人は軽く談笑をして笑いながら握手をしているのが見えた。

 そのままジークは騎士達と軽く会話すると、アーシャの元へと歩いてくる。


「お疲れ様。あの副隊長に勝つなんて凄いわ!」


 近づいてきたジークをアーシャは労った。

 自分の事のように喜んでいるアーシャに軽く笑うをジークは隣に腰を降ろす。


「俺が勝つのを誰も予想していなかったようだ」


「そりゃそうよ。副団長は今まで誰にも負けたこと無いのよ……隊長を除いてね」


 アーシャが言うと後ろから騎士団長が下品に笑い声をあげた。


「今度は俺と勝負しようぜ」

 

 親指を立てて自分を指さしている騎士団長を見てジークはうんざりしたように首を振る。


「止めておきますよ。騎士団長に勝てる気がしない」


「謙遜するなよ!」


 騎士団長は上機嫌に力いっぱいジークの背中を叩いた。

 あまりの強さにジークが咳き込む。


「大丈夫?」


 アーシャが心配して声を掛けるとジークは咳き込みながらも手を上げて答えた。


「大丈夫だ」


「そんな軟弱だと、ジェリーエンとやり合っても勝てないんじゃねぇのか?」


 アーシャは後ろに座る騎士団長を勢いよく振り返った。


「シェリーエンって女盗賊と言われている人?」


「よく知っているなぁ」


 関心する騎士団長にアーシャは頷いた。


「ジークに聞いたのよ。シャーロットと同じぐらい話が通じない人らしいってね」


「俺はあんまり知らねぇが、噂では相当なやり手らしいぜ。数十人の盗賊集団で金目の物を国境を越えて盗んでいく。それを売りさばいたり、しまいには薬も作っているらしい」


 騎士団長が太い腕を組んで言う。

 アーシャは首を傾げた。


「薬?」


「間違いなく人を治癒する薬ではない。わざわざ工場を作ってろくでもない薬を製造しているらしい」


 ジークが引き継いで話すと騎士団長はニヤリと笑う。


「おー、さすがジェーリエンに詳しいですな」


「たまたまだ」


「その女盗賊と何かあるの?」


 含みのあるいい方をする騎士団長の言葉が気になりアーシャは不機嫌な顔をしているジークに聞いてみる。


「少しだけ関わったことがある程度だ。とにかく、とんでもない女だ」


 嫌そうに言うジークにこれ以上聞くこともできずアーシャは騎士団長をちらりと見た。


「ジークが一番良く知っているからそれ以上の情報は無いな」


「シャーロットぐらい訳の分からない女性なら会いたくないわね」


 アーシャが言うとジークは頷いた。


「まったくだ」





「それでね、ジークがこうやって剣を突きあげたら副団長の剣が飛んで行ったのよ」


 アーシャが一生懸命話すのをミナは呆れる。


「もう何度も聞きました!ジーク殿がカッコよかったどうしようまでセットで聞きましたよ。もう何日同じ話をしているんですか」


 いい加減にしてくれとミナは両手で自らの耳を塞いで首を振る。

 数日前のジークと副団長の練習試合を思い出して浮かれながらアーシャは朝から晩まで言っている。

 その数日の間にはジークとアーシャは庭に出たり、修復済みの図書館へ行ったりしていたのだがそれでもずっと練習試合の話をしている。

 

「だって、凄くカッコよかったんだもの」


「もっと違う話は無いんですか?」


「あるけれど、練習試合の時のジークを超える話は無いわ」


 またジークの素晴らしさを語ろうとするアーシャをミナは制した。


「もういいです。十分です。そこまで自分でジーク殿が好きと自覚されているのならドウラン様に言ったらいかがです?」


 ミナの提案にアーシャは座っていたソファーにだらしなく寝そべった。


「わかっているわよ」


 兄に言えばアーシャを思ってジークと結婚できるように段取りしてくれるに違いない。

 それでもジークは自分をどう思っているのだろうと怖くて確認することが出来ない。

 護衛対象だから優しくしてくれると思うとなおさら辛い。

 それでも何とかしないととアーシャは決心してソファーから起き上がった。


「お兄様の結婚式が終わったら申し出てみるわ。もちろんジークの意思が大切だってちゃんと説得するわ」


「いいですか姫様、もしジーク殿が断ったら潔く引いてくださいね」


「失礼ね!私が断られる前提のいい方じゃない!」


 ムッとするアーシャにミナは冷めた目を向ける。


「そんなことありません。ただ権力に物を言わせるのだけはダメですよ」


「そんなことしないわよ。それじゃ、シャーロットみたいじゃない」


「そうですよ。ですから気を付けてくださいね。世の中には自分の想い通りにならないこともあるんですよ」


 口煩く言うミナにアーシャは腹が立ってくる。


「あんまりでしょう!私が断られると思っているの?」


「逆に聞きますけれど、断られない自信があるんですか?」


 ミナに言い返されてアーシャは口ごもった。

 確かにジークは優しく接してくれるがあくまで護衛騎士だからだ。

 優しいが、相手が自分を好きだという確証はない。


 不安になっているアーシャにミナは頷いた。


「まぁでも当たって砕けろってこともありますから頑張ってください」


「ちっとも頑張れる気がしないけれど、お兄様の結婚式が終わったら言ってみるわ」


 自信はないけれどとアーシャは小さく呟いた。


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