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 ジークがアーシャの頭を撫でまわしていると、小さない悲鳴と共に嫌な奴の声が聞こえた。


「まぁ、ジーク様じゃありませんか!」


 視線を向けると、細い通路をシャーロットが歩いてくるのが見えた。

 シャーロットを先頭に後ろにはお気に入りの侍女数人が付いてきている。


「嫌な奴が来たわ」

「本当だ」


 アーシャが小さく言うと、ジークも頷いて手を降ろした。

 ジークは無表情に戻ると軽くシャーロットに頭を下げる。


「まだ、アーシャ様の護衛騎士なんて勤めておりますの?私の護衛騎士になりなさいな」


 顎を上げて生意気な口調で言うシャーロットにジークは軽く眉をひそめた。


「俺はこの国の騎士ではありませんので無理です」


「アーシャ様の護衛はしているのに?私の護衛は出来ないという事?」


「アーシャ姫の護衛は上司から命令を受けておりますので」


 無表情に告げるジークをシャーロットは睨みつける。


「絶対に私はあなたを手に入れるわよ。気に入ったわ、その顔」


「……」


 眉をひそめてジークもシャーロットを睨みつけた。

 明らかに不機嫌なジークの様子を気にすることもなくシャーロットはニヤリと笑うと歩き出す。

 シャーロットの侍女達もアーシャを気にする様子もなく素通りしていくのを見てジークは大きなため息をついた。


「なんて女たちだ。アーシャ姫に敬意を感じない」


 吐き捨てるように言うジークにアーシャも頷く。


「年々酷くなっているような気がするわ。シャーロットもあそこまで我儘で傲慢な雰囲気ではなかった気がするんだけれど」


「あの母親はもっと酷そうだな」


 嫌そうに言うジークにアーシャは大きく頷いた。


「もっと嫌な感じよ。早く田舎に帰りたいわ」


 遠い目をしているアーシャにジークは同意する。


「そうだろうな。ここは酷すぎる」


 アーシャは突然心配になってジークの服の袖を引っ張った。

 視線を向けるジークを見上げる。


「ねぇ、お兄様のお嫁さんは大丈夫かしら。ジークはその調査のために来たのでしょう?嫌な奴がいるって報告したらお嫁さん来なくなったりしないかしら」


 不安な瞳をしているアーシャにジークは顔を和らげる。


「大丈夫だ。……なんていうか、普通の人より強いから。むしろ、シャーロット姫に何かされたら倍返しするような人だからそっちの方が心配だな」


「お兄様も強い人だから大丈夫だって言っていたけれど、心配だわ。できれば、お兄様と城で幸せに暮らしてほしいもの」


 自分の母親は逃げ出してしまった。

 暗い気持ちになっているアーシャの背中をジークは軽く叩く。


「大丈夫だ。もし俺がこのことを報告したらあの人は嬉々として腕まくりしながらやって来るよ。自分の居る城は面白みがないって嘆いているぐらいだからな」


 半ば呆れたように言うジークにアーシャはやっと安心する。


「ジークがそこまで言うのなら大丈夫かしら」


「大丈夫だよ、むしろシャーロット姫の身の安全を心配したほうがいいいな」


「……ジークがシャーロットの護衛騎士になることもあるの?」


 不安そうに聞いてくるアーシャにジークは首を振る。


「それは無い。今回が特別なだけだ」


「そう……」


 シャーロットの護衛騎士になることが無いのは嬉しいが、やはりいずれ去っていく人なのだ。

 ジークが居なくなるのが寂しくなりアーシャは顔を伏せる。


 「アーシャ姫は優しいな」


 上機嫌になったジークはそう言うとアーシャの頭を力いっぱい撫でた。

 




「はぁ」


 何度目かのため息をついているアーシャにミナは顔を顰める。

 ジークと庭園の散策を終えて帰ってきてからのアーシャは心ここにあらずという感じでため息ばかりついている。

 

「気分転換になりませんでしたか?気分が晴れていないようですけれど?」


 ミナが聞くとアーシャはため息をついて天井を見上げる。


「だって、ジークがカッコいいんだもの」


「あぁ、なるほど恋煩いってやつですか……」


 心配することも無かったかとミナは机の上にお茶を置いた。

 

「だって、ジークがね私の頭の葉っぱを取った時すっごくドキドキしちゃったわ」


「たかが葉っぱを取ったぐらいでその反応ですか。先が思いやられますわね」


 呆れているミナを気にせずアーシャは再びため息をつく。


「はぁ、ジークはお兄様の結婚式が終わったらきっと国に帰ってしまうのよね。寂しいわ」


「結婚をさせてくれとドウラン様にお願いしてみたらいかがです?」


 さらりと言うミナにアーシャは椅子から転げ落ちそうになるほど驚いてのけぞった。


「け、結婚ですって?話が飛躍しすぎじゃないかしら?まだそんな仲じゃないし、それこそジークに失礼じゃない!」


「そうですかねぇ?それこそ、姫様は会ったこともない男性と結婚させられる運命なんですよ。だったらいっそうの事ジークと結婚させてくれとお願いしてみてもいいのではないですか?」


「言われてみればそうなんだけれど。それこそジークの人生がかかっているし、ジークはただの騎士だから私なんて無理な気がするし」


 口を尖らせながらブツブツ言っているアーシャにミナはため息をついた。


「さっさとしないと、ジーク殿は国に帰ってしまいますしアーシャ様も結婚をドウラン様に決められるかもしれませんわよ」


「そうなんだけれどね……。もう少し様子を見たいわ。ジークが私を嫌いじゃなければお兄様にお願いしてもいいと思うけれど……」


 小さく言うアーシャにミナは肩をすくめた。


「ジーク殿が帰るまでに決心したほうがいいですよ」


「わかっているわよ」


 アーシャは自信なさげに頷いた。



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