6章 幻実&幻実=?
「ねぇ夏雪」
帰り道。燃えるような夕焼け。
「ん? 何だ?」
「私さ、夏雪の事が好きなんだ」
突然の告白。なんとなくわかったんだろう。俺の様子を見て、何かをするっていうのが。
友人としての感情ではない言葉。だから俺の答えは一つだけ。
「夕菜。俺さ、どうしても助けたい、好きな人がいるんだ」
それは互いにわかってた。俺は表に出さないけど、夕菜はそれを感じていた。
わかっていたから、聞かなかったし、わかっていると思っていたから言わなかった。
けどそれでも言わなかった理由は。
「うん、知ってたよ」
夕菜を傷つけたくないっていう俺の偽善でしかなかった。
「おー。最近お疲れの所悪いけどさー、起きるべきだと思うよー?」
揺すられる感覚を受けて目が覚めた。目を開けると法一さんの顔が近くにあったのでどける。
周りじゃ何か騒がしい声が聞こえるけど無視しよう。
「あー、すみません。考え事してたらつい」
人工知能に関する情報を読んでいたら眠気が着てしまった。きっと昨日の事も原因だろう。
「寝る前に話を戻すんだけどさー。これは無理だと思うぜー?」
軽く組んでみたのは自分で掴み、叩き、潰す相手を選別するプログラム。ただそれは自身で思考させないといけないわけで。
「自意識を持つプログラム、なんだよなぁ」
プログラムを見ながら考える。考えて、考える。
無理だそんなの。
「諦めるの? そうね。諦める諦めないじゃないもの。不可能よ」
思考をばっさりと切り捨ててプログラムの構築に戻った兎さんを横目にしながら俺は考えてみるけど。まぁこれは無理だろう。考えるだけ無駄か。
「今のところどんなにやっても達成できねぇしなー。ニュースでやってるのもどうせガセだろ」
完成とか言っても自分で考えているように見せかけているだけっていうのが大方の意見だ。
というかそんな物が出来たらとっくの昔に幻実を作ったどこぞの天才が発明してんだろう。
分野が違うからそんな事はありえないってわかってるけど。
「腕程度なら適当にやりゃいいんじゃねっすか? 私にゃわからねぇっすけど」
「素人が変に口出すんじゃねぇよ。ってかおい棺桶。何でこんな三下までここに居るんだ」
こいつらのことは放置しておく。
まずは考えることを考える事が先決だわなぁ。あそこの技術も前より進歩してるだろうし。
場所の特定はいつも通りに世果に聞くしかないんだが。本当、あいつも謎だよな。何者だよ。いつもあそこの場所がわかるのは、何をどうしてるんだ。
直接聞けばいんだろうけど教えてくれるわけないしな。あいつの事だし「私がどんな回答をした所で確証は持てないのではないかな? それなら知っても知らなくても同じ事だよ。ただ欲しいというなら一千万程用意すれば教える気はあるがね」ぐらいは言うだろうなぁ。
あー、もう。幻実逃避して夕菜と適当に話でもしてたい。
昨日の事を思い返すと夕菜とは会話は出来ないだろうなぁ……。俺が完璧に振ったような形だし。何で俺なんか好きなんだ。
アイツならもっといい男を見つける事ぐらいできんだろうに。
「何か悩みでもあんのか?」
「昨日幼馴染の子を振ったって言ってたぜー。はは。もてる棺桶は辛いねぇ」
法一さんアンタ何カミングアウトしてんだ。ていうか俺の事だってのに何言ってんだこいつ。
「詳しいことは思い出したくないし言いたくもないから言わないぞ」
これだけはマジで。泣かれもしなかったし、悲しそうな顔にもなってなかったけど。夕菜を傷つけた事は確かなんだし。人に話すような事でもない。
聞かれても答えられる事じゃないしなぁ。
「へぇ。……ハルモさんぶれないっすね。そこに私惚れ直しますよ」
こいつは論外だ。俺の中に存在する常識の規格外だからどうでもいい。
「はん。女泣かせって奴だな。それで何人の女を泣かせてきたことやら」
キングもキングでなんでそんな棘があるんだ。同じ女として共感でもしてんのか。
あー。もう。面倒くさいなぁ。
「うっせぇなぁ。とりあえず準備万端ってわけじゃないけど整ったよな」
あれから、二週間。結構長かった。
シャングリラ攻略を一緒に行うという奴が八十七人。見学だけ来ると言った奴は八人。
攻略はわかるけど、見学って何でだろうか。世紀の瞬間を目撃したいって考えてるのか。
それとも俺が失敗して取り込まれる瞬間でも見たい奇特な奴が、居るんだろうなぁ。交友関係が広いと、味方も多くなるけど敵も多くなるもんだ。
変に目立つとこれだから困る。千さんを助ける事が出来たらしばらく身を隠しておこうかな。
「それで、決行はいつになるの? 今月で日にちは二十二時からとしか聞いてないのだけれど」
「ああ。それ嘘です。決行時間は二十一時からで、来週に行きます」
一応、ばれないための防止作なんだけどな。時間ぐらいはシャングリラも掴んでるだろうから、念のために時間をずらす。これで何人か、何十人か来れなくてもそれは許容範囲だ。
二十人ぐらい来れるなら良いんだが。
「それ下手すりゃ人来ねぇって事もあるんじゃね? 作戦って呼べねぇだろうし。呼べても下策だろ」
痛い所を突いてくるなぁ。事実そうなんだけど。
「それぐらいの賭けを成功させないと、あそこは厳しいだろう」
誰かがあそこに行ったって噂は聞くは聞くのだけれど。どうも、昔と違って門番が居るらしい。それに追い返されて入れないって理由が大半らしいのだけれど。
昔のような戦争ならともかく、今の時代で門番が居る理由はなんだろうなぁ。
「用心深いこった」
「用心する事に越した事はねぇって知んねぇのか裸の王様。つーかハルモさんに喧嘩売るってんならアタシが買うぞこら」
「あ? うっせぇな三下が。ゴミ箱にでも入れてやんぞ」
もうこいつら放っておこう。そうしよう。
「……それで勝算があるならいいけれど。それじゃあ、早く色々やりましょう。像を助けるためにも、ね」
「まー、そうだなー。いい加減、シャングリラに縛られるのも面倒くせぇしなー」
うーん。兎さんの言葉にはいつも裏があるように思うなぁ。裏というか、含みか。法一さんも同じような物言いなんだろうけど。この人の場合は気にしても仕方ないか。
兎さんのことを第一に考えてる人だし。
「それじゃあ、兎さんは来週までにあれの完成をお願いします。法一さんは隔離の準備を」
二人については特に問題ないんだけど。
「……そこの二人は、当日までに分かり合っておけよ。お前ら戦力の要なんだからな」
たった一人の軍勢。破壊王のキング。
六人の楽団を率いるトランペット。
こいつらが居れば並大抵の企業や研究所は落とせるんだよなぁ。
「誰がこいつとなんか」
「どちらかというと大反対っすね。こんな奴と一緒にしないで欲しいっす」
あー。もう。頭痛くなる。何でこいつらこうも仲悪いかなぁ。
「んじゃ、解散。また来週。決行日一日前にここに集合。それまで重要な用がないなら連絡はなしで。いいな」
俺の言葉にそれぞれが適当に頷いてどうにか解散になった。あー、もう。面倒くさいなぁ。
「……あー。寒い」
身体だけじゃなくて心も。いつも居る夕菜が高校でも居なかったっていうのがでかいかもしれない。
自分から拒んだ事だし、仕方ないんだがなぁ。
そして。病院の前で立っているのが今の俺。会わないと言ったけど、それでも会いたくはなる。誰も聞いていないし破っても文句は言われないだろうけど。
自分の中にある何かが、折れてしまうかもしれない。
夕菜の告白を断ったのもそれが最大の理由だ。思い出す度に胸が痛くなる。
「……まぁ。どうせ今月中には、会えるんだ」
それも、起きた千さんに。そう思えばまだ頑張れる。頑張る事が、出来る。
病院を眺める。隣を通り過ぎる人が俺を見て首を傾げて向かうのを見ながらふと思う。
犬さんは、どうしているのだろうと。
あの人は俺が助けるより先に出来るのだろうか。それとも、俺が失敗した時に備えているんだろうか。
俺が失敗しても犬さんが居るだろうという安心感はある。だから俺は落ち着いていられるんだろうけど。
「さぁて。どうなるんだろうな」
病院の前で座りながらしばらく待ってみる。別に約束をしていたわけでもないし、確信があるというわけでもない。だけど、なんとなく犬さんと話をしたかった。
言えば、来てくれただろう。メールでもすれば応えてくれただろう。けどあの人と会うのはそういうのじゃいけない気がした。だから、待ってみた。
はたして犬さんは現れなかった。
当たり前だ。あの人に会えるのはせいぜい一年に数度だしな。この間会えたのは単純に運が良かっただけだろうし。
俺は俺で、やろう。




