読み込み中 ②
「俺様の色気に釣られたか?」
「はっはっは。楽園に行ってみるか?」
釣られてないって言えない事が悔しい。畜生。
それはともかく。阿修羅は、俺が動かすには少し厳しい。
「性能はどんなだよ」
「対ヴァンダル。付加は何もない。ていうか他の機能を削ぎ落として全部格闘戦にあてたって感じだ」
技量の差を埋めるには圧倒的な能力しかない。という前提を作った。
結果はどうにかキングに勝利できるぐらいだったから、ある程度の稼動は見込めるだろう。
「はん。アンチウィルスぐらいは入れてあんだろ?」
「…………」
「お前バカだろ」
あれ入れると数値落ちるんだよなぁ。どうすればいいんだろうか。
「んじゃちょいプログラム見せろ。俺の奴を流用してやる。……ったく、これ人に見せたくねぇんだけどな」
プログラムだけ渡して、疑問に思う。
あれって何だろうか。流石にツールをくれるとは思わないけど、そういえばキングの強さの秘密って奴なんだろうか。
「どういう奴なんだ?」
「リアルタイムで数値を変化させんだ。少し重くなるけどよ、処理速度は問題ねぇだろ。数値を固定化するよりかは使い易くなんだろうし。一部のプログラムは削れるしな。んでウィルスにも耐えられるようにしておけよ。本気で格闘だけに絞るにしても最低限って言葉はあんだしよ」
成程。例えるなら今が合計千の値を割り振ってるけど、それを使えば合計が五百でも構わないって事か。千までにすれば攻撃の瞬間に攻撃の数値に千全てを割り振れるというのもあるしな。上手く使えば、最強って呼ばれる事もあるかもしれない。正直そんな称号はヴァンダルに投げてればいいけど。
兎さんと作ってる時はそこら辺の調整は投げてたし。とりあえず完成させることが第一な雰囲気があった。……あの人の作り出す雰囲気と思考に釣られたなこれは。
流され易い性格は直さないといけないよなぁ。
「無駄な四本の腕は……。もう掴む殴るしか出来ねぇようにしていいんじゃね? どうしたって実戦に耐えられるような物にはならねぇしな。像あたりならそこらは上手く処理できるようにすんだろうけど。他にも完璧な人口知能でもありゃ違うんだろうけどな」
……珍しい。千さんのことを話題に出すなんて。五年前のあの日から、千さんに事になると自分から話題を変えていたはずなのに。何か心境の変化でもあったんだろうか。
いや。考えてもそれこそ詮無いことか。答えが出るわけでもないし。やるべき事を、やろう。
「シャングリラに行くまでにそこらを完全に詰める必要あるなぁ。久しぶりに四人で集まって手伝ってくれよ」
俺。法一さん。兎さん。キングの四人だ。千さんは言わずもがな。
犬さんは基本的に音信不通だ。あの人も助けるために動いてるのはわかるんだけど何をしているんだろうか。
一緒に動くよりも別々に動く方が助けられる物なのだという事なんだろうけど。
一人と大勢。どっちにもメリットはあるしな。
「四人か。まぁいいけどな。うし。んじゃお前がそれに慣れる訓練でもすっか。何なら今日泊まっていってもいいぜ?」
「あー」
女の子の家にお泊り、とだけ聞くとドキドキしなくもないけど。寝心地よさそうなのが嫌だな。俺は煎餅布団で寝るのがお似合いだろう。
まぁ夜飯までご馳走になるのも悪いし。夕菜に連絡とるのも面倒くさいし。
「大人しく家に帰る事にするよ。夜道は危ないしな」
駅から家までも少しは距離あるしなぁ。帰りの時間を考えると十六時にはここを出た方がいいだろうなぁ。色々とメールとかも溜まってるのもあるし。面倒くせぇな。いっそ何も考えずここに泊まっちまおうか。
なんて、現実逃避なんか出来やしないけど。
「そうか。んじゃ、車でてめぇの家まで送ってやるよ。二、三時間ありゃ着くだろ」
「ありがとな。んじゃその方向で。……家まで送られたら俺が何かしたのかと勘違いされそうだなぁ」
黒塗りの車だし。夕菜に心配されるかもしれないな。心配した顔も可愛いからそれはそれで大満足ではあるんだけど。あんま心配させるとおばさんに怒られるからそこらの些事加減には気をつけよう。
「んじゃ特訓始めんぞ。上書きしておけ」
「あいよ。ありがとな」
それからおよそ三時間。それはもう、地獄としか言えないような時間だった。
現実だったら十回は死んでた。腕が取れるとか、腹貫かれるとか。首がもげた瞬間に強制切断くらったぞ。
現実に戻ったときは首が本当に繋がってるか確認した。あと腹の中を掻き回される感覚は二度と経験したくない。痛みのレベルで強制切断くらうのはいいんだが。絶対これ精神的に後遺症残るだろう。昔に経験しなくて良かったと思う。こんな事やってたら怖くて幻実に入ることは出来なくなってる。
……これぐらいの痛みをほぼ毎日くらってるキングすげぇな。少し見直した。ついでにマゾなんじゃないかって思えてきた。
「大丈夫ですか夏雪様? お顔が優れないようですが」
そんで時間は進んで車の中。やけに暖かいし、すわり心地も最高で広いんだが。……何でこいつが居るんだ?
わざわざ来ないで休んでればいいのに。
「それはそれで。……何で付いてきてんの?」
「夏雪様のご自宅を拝見させて頂こうと思いました。いつか遊びに行く機会があるなら知っておいた方が良いと思いますので」
病弱な人間が来れる程いい場所じゃないのは確かなんだが。
止める理由もないし、送ってもらえるなら何でもいいけどさぁ。
「と、言うのは冗談でして。晴美様の家に行く予定なのです。少しばかり話し合うことがあるので」
幻実じゃいけないんだろうか。……まぁ、そこは一応女性同士だし何かあるんだろう。俺にはよくわからないなぁ。話すだけなら法一さんとは現実でも幻実でも変わらないし。
そこは女と男の違いって奴か。
「……まぁ、兎の家ってでかいしなぁ。あとくっ付きすぎ」
「人肌は温かくて気持ち良いと思いませんか?」
毛布で夜の一時を共有した仲になったわけか。ははは。嫌な仲だなぁ。ていうか寒いなら暖房付けておけよ。
人肌が安心するってのは、わかるけど。わかるから嫌なんだよなぁ。家に着いたら少し寂しくなるし。
「はぁ。病人に優しくしない程余裕がないわけじゃないしいいけどな」
幻実ではあんな奴だし優しくする気はないけど。現実でこうなら優しくしないわけにもいかない。一応車に乗せてもらってるわけだし。
……これなら電車で帰ればよかったかもなぁとは少し思う。今更言っても意味はないか。美少女と触れ合えるなんてよくかんげれば滅多にない事だし。この至福のような拷問のような時間を少しだけ満喫しよう。
「私にこうされて何もしないという事を晴美さんにお伝えしておきましょうか?」
「どうなっても俺は色々蔑まれる結果に終わるよなそれ」
反応があったらあったで好きな人が居るのに、と言われるし。何もしなくてもそれはそれで不能だとか意気地なしだとか言われるだろう。冗談だろうけど心には来る物があるんだよなぁ。
「ふふ。冗談ですよ」
純粋に良かった。現実でも何か妙な噂がたつのは避けたい。学校じゃただでさえ病院に通ってるせいで子供を作っただとか、恋人が植物状態だとか、夕菜と二股かけてるとか言われてるんだ。……夕菜に関しては、否定しない俺が一方的に悪いんだろうけどさ。
「言いふらすだけです」
前言撤回。とりあえずこいつは殴り飛ばしたい。畜生、病人じゃなけりゃ、女だとか関係なくやってるってのに。
あー。言葉遣いが柔らかくなってるっていうか。慇懃無礼っていうか。言葉遣いが良いだけで中身はやっぱりキングだよなぁ。あと無駄に女の武器を使ってくるところとか。
使える物は何でも使う。キングらしい。らしくてうざい。
「お前もう帰れよ……。家から一歩も出るなよ……」
俺の世間体のために。
「何にせよ。女性を使い捨てるような人間だと言う事は間違っていないでしょうに」
「俺がいつそんな事した」
思いつくのはトランペットぐらいだけど、アイツを女として意識した事は一度たりともねぇよ。それに使い捨てるような事もしてねぇ。
……アイツならアイツで「使い捨てられても私のハルモさんに対する愛は未来永劫変わることはないっすから!」とか言い出しそうで嫌だ。そこまで想像できる俺も嫌だ。
やっぱり関係を見直すべき段階に入っているのかもしれない。リアルでは絶対に会わないようにしよう。
「そのような事は置いておいて良いので。……いつ頃、行かれるのかは後で話し合いですか?」
「いきなりそういう話題になんのな……。正確な日はわからないけど、二月中に行く。お前が居るから大幅な修正はしなくてもいいし、最低限の人数は揃ってる。ただ……」
心配事はある。小さなことだけど、風が吹けば桶屋が儲かるっていう偉大っぽい先人たちの諺もあることだしな。
何がどうなるのかわからないし。
「心配事があっても外に出さないのが一番の上に立つ人と父様が言っていました。貴方は、仮にも私たちのリーダーなのですから気をつけてくださいね」
忠告か。それとも釘を刺されたんだろうか。それに、まぁ。
とりあえずなんだろうけど。キングにはリーダーと認められたようだ。




