5章 読み込み中
「……………………でけぇ」
目の前には宮殿かと見間違うような大きさの屋敷があった。宮殿なのか屋敷なのかはっきりしろとか言う奴はこれを実際に見て欲しい。大きいんだ。エベレストとかを見たときの感慨はこんな物なのかもしれないと思う程、大きい。でけぇ。
「夏雪様。こちらです」
駅についてからなんか黒い服を来た人が迎えに来て、車に乗せられる事一時間。気まずい時間だったのは言うまでもない。
大きすぎる正門が開いて十分。家まで十分は流石にありえなくないか。どこの小説か漫画だよこれ。
中に入って、なんかどこかで見たことあるような絵画とか見るからに高級品の置物を通過するときは心臓バクバクだった。怖い。落としたら一生かかっても払いきれないだろうこれ。
「リア様。夏雪様をお連れしました」
「あ、はい。中に通してください」
……誰だよリアって。ていうか表札は確か中島ってなってたよな。どう見ても日本人の名前だったよな。
しかも、聞こえてきた声はか細いっていうか、蚊の鳴く声っていうか。病弱な人間の声にしか聞こえなかったんだが。
「私は外で待機していますので。夏雪様どうぞ」
ドアを開けられて、断れる雰囲気でもないし仕方がないから中に入る。……甘い匂いとかを予想してたわけじゃないけど。
広がってた匂いは、薬の匂いだった。
「いらっしゃいませ夏雪様。お初にお目にかかります。このような姿である事は失礼だと承知しているのですが、申し訳ありません」
絹のような金髪。黒色の瞳。深層のお嬢様と言った雰囲気が漂う、美少女。肌は、病的なまでに白い。これは間違いのない表現だろう。薬品の匂いがするんだ。病気でないわけがない。
「中島・リアと申します。以後お見知りおきを」
ベッドで座ったまま彼女は頭を下げてくる。俺もつい頭を深く下げてしまった。やばい。混乱してるのかもしれない。
「……夏雪様? こちらに座ってください。そしたら、幻実に入りましょう。ここはローカルネットワークですし。夏雪様もそちらの方が話し易いでしょうから」
「あ、あぁ。うん。いえ、あぁ、はい」
俺は何してんだ。こう、現実感がなさ過ぎてかなり混乱してるのかもしれない。
困ったな。
「接続の準備はよろしいですか?」
示されたベッドの横にある見るからに高価そうな座り心地がやけに良い椅子に座って幻実へ入る準備を終わらせる。
「ああ。平気です」
思わず敬語になったっちゃったよ。
「ではあちらで」
「はい」
そして、ようやく幻実へと入って。
「あー、面倒くせぇ。家に居るとだりぃだりぃ。この家マジで面倒くせぇんだよ。家の中でも敬語って普通どうだよ。ったく、こんな所に居るぐれぇならどっか適当なアパートで暮らしてぇよな。お前一人暮らしなんだろ? 今度泊めろよ」
ああ。ようやく実感できた。なんだか日常に戻ってきたみたいだで超疲れる。現実も現実で疲れるけど、あれはあれで異質を味わったような疲れだ。
「……。それは構わないけど、お前幻実と現実でキャラ違いすぎね?」
「糞親どもに調教されまくったからな。仕方ねぇだろ」
調教とか言うな。そこは普通教育だろうが。女の子が調教されるって変な想像しかわかねぇよ。これは現実で話してた方が良かったかなぁ。いやあれはあれで悪いな。俺の心臓に。
「まっ。つーわけだ。俺は家の外から出られねぇからな。シャングリラに捕まったら見舞いに来させるために呼んだって事だ。もう帰っていいぜ」
「それだけのために俺の三時間を無駄にしやがったのか」
まぁ、良い物を見れたとは思うけど。
「ああ、そういうこった。ちなみに昔に話したサンドバックを蹴るのは完全な嘘だぜ?」
あー。そういえば昔にそんな事言ってたな。……今のこいつを見れば嘘だっていうのはわかるけど。
「……そういえば、もしかして幻実で訓練してるのか?」
現実で出来ないって事は、幻実でやるしかない。精神でも練習を重ねていればそれは身体が動くことになる。現実で可能かどうかは別問題だけど、幻実で想像できることに不可能はありえない。
「当たりめぇだろ。俺様の貧弱な身体で出来ると思ってんのか?」
「胸は大きかったけどな」
「セクハラで訴えんぞ」
笑いながら言われる。まぁ、今のは流石に酷かった。ていうかあの時に胸を見てる俺が凄い。所詮男は本能に勝てないって事か。
救いようがないな。
「……それで、用件は本当にそれだけなのか?」
「あ? まっ、とりあえずはな。ついでにお前の、何だ? 阿修羅つったっけ? それの練習すんなら付き合うぐれぇだな。秘密特訓って奴だ」
それ自体は頼もうと思っていたから今出来るならありがたいな。一応携帯型の物にもアバターは入れてあるし。……そのせいで容量は結構酷いことになっているから大した事は出来ないんだが。
「それも魅力的だなぁ」
正直、現実のキングと話すのも魅力的はあるけどね。あぁ、とりあえずは、そうだな。
「まぁ、腹減ったし飯食わせてくれないか?」
一番の目的は、それだったわけだし。
「は? あー。そうだな。飯食ってから特訓と行くか」
「少し時間置いてから頼む」
すぐに特訓なんてしたら確実に吐く。昨日戻さなかったのが不思議なくらいだ。
「ご馳走様でした」
「……高級すぎる。俺の舌じゃ理解の範疇を超えてる……」
なんか、こう。豪華というか豪勢というか。多分どこか高級ホテルとかで出るような物。俺の人生で本来なら一生に一度しか食べられないような感じ。庶民と金持ちの差を思い知らされたような気がする。
あんな物を毎日食ってれば普通カップ麺とか食わないだろうなぁ。麺でも中国の本格とか食べてそうだ。
俺、腹壊さないかな。不安になってきた。
「少し横になられますか?」
少ししか食べなかったキングの分まで食ったせいだろう。ていうかこいつも食べる量少ないならそう言えばいいのに。俺の分も量多かったしなぁ。
「……いや、いい。ていうか横にってどこに横になるんだ」
「私の横にですが」
危ねぇよ。キングは危なくねぇけど、俺が危ねぇよ。色々な部分が。ついでに命も。
「勘弁してくれ……。ていうか本当敬語しか話さないのな」
簡易的に作られた机はすでに片されて、さっきまで居た執事っぽい人が持ち去ってくれた。ていうか現代日本に執事なんて居るんだ。世界が違うような気がするんだが。
「はい。厳しいわけではないのですが、ついそうしてしまうのです。父様と母様のご教育の賜物なのでしょう」
うわー。白々しい。さっき調教とか言ったのはどの口だ。
「私、下品な話はできませんので」
心の声を読むんじゃねぇ。まぁ今までだったら「どこの口が~」に「下の口じゃね?」ぐらいはキングが言うしな。……ああ、下品な話だよ。
一番酷いのはお前だが。
「そういやお嬢様。何の病気なんだよ」
「リアと呼んで頂けませんか? 私も下の名で呼んでいる事ですし」
重要な部分なのかそれ。……うーん。どことなく顔が赤いのは興奮しているんだろうか。それとも病弱だから飯を食べた時の熱が頬に出易いだけかね。
まぁ、どっちにしても上手く話題を逸らそうとしているのは別問題か。思わず聞いた俺が悪いしな。そこは上手く乗っておこう。
「んじゃリア。もしかしてハーフか?」
もしかしなくてもハーフなんだろうけど。これで日本率百%とか返されたらどうしようか。そんなわけがないのはわかってるんだけど。
「母様がドイツ人で、父様が日本人ですね。仕事の関係で出会ったと聞いています」
へぇ。しかしどんな仕事をすればこんな家に住めるんだろう。わけわからねぇ。
「そういや何歳なんだ?」
見た目から俺の一つ二つ年上に見えるけど。二十歳前後って所かね。
「夏雪様、女性に年齢を聞くのはどうかと思われますが……」
え。言えないぐらいなの? いやいや。それは流石に予想外だったわ。
「晴美様の少し下、ですけれどね。……歳を言うと驚かれるので言うのが好きではないのです」
まぁ俺よりは年上だろう。ていうか俺より年下ってそんなに……まぁ今は多いけど昔は多くなかったしな。
「それよりも……。こうしているより幻実へ行きませんか?」
いい加減痺れを切らしてるのかもしかして。口調は相変わらず柔らかいし、表情も微笑みのままだからわかりにくいな。まー。家の中に居ると仕方ないって事なんだろうけど。
窮屈な生活してんなぁ。どうしようもできないけど、まぁ気晴らしぐらいなら手伝うのもいいか。
「それじゃあ腹ごなしの運動でもいくか」
「はい。よろしくお願いします」
何で服を少しはだけさせる。お前一流のジョークのつもりか。面白くねぇよ。
「少し脱いだのは熱くなっているだけで他意はありませんよ?」
「死ねばいいのに……」
年頃の男の前で服なんか安易に脱いでるんじゃねぇ。下手な奴はそのまま狼になっても不思議じゃねぇぞ。まぁ、赤頭巾よろしく外に居るかもしれない人に撃ち殺されるのが明白なんだろうけど。
怖い怖い。




