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0と1の世界  作者: 龍太
15/23

   Error継続中 ④

 人の形から、更に変わる。本来ならスペックの限界的にこれは出来ない。出来るはずがない。出来る物なら皆が皆やっているんだ。

 通常時と戦闘時がわけてあるのは利便性。複数のアバターを使うぐらいなら一つのアバターで組み替えた方が労力はかからない。そして容量もそこまで食わない上に、プログラムを組む事を必要としない。

 そもそもが、アバターが数段上の数値になる事すら面倒くさい処理を挟むっていうのに更にその処理を面倒くさいものにしてアバターを重くしてはどうしようもない。


「……舐めてんのか、糞野郎。俺を、この俺様を、よぉ」


 だから第三のアバターなんてまともに動くわけがない。それが、本来。


「いやいや、俺は大真面目だぜ? 期待してろよ、お前が地面に崩れ落ちるのを、な!」


 動き、いともあっさりとキングの傍まで寄って、殴り飛ばした。この姿、そう。千さんの戦闘時を見た時から。俺の強さの象徴はこれだけしかなかった。


楽園の阿修羅(タイプ・ディスコード)、なんて言うと恰好よくないか?」


 顔は三つ。全方位を網羅。見える範囲が広がった分気移りしちゃいそうだけどそこは俺の集中力でカバーしてみたい。元々の二本の腕が六本に増えたけどこれを操ることなんて人間として出来ないからそれは学習型人口無能に操らせる。掴むか、殴るしかできないけどね。


「……ぐっ。てめぇ、何しやがった?」

「さぁてね」


 会場が色めきだった。これは予想できないだろう。

 例えるならアインシュタインとミケランジェロが共同で一つの連作を作り上げたような物だ。

 強さの秘密は簡単なんだがな。戦闘面での強さだけに絞るっていうのが戦闘型だけど。

 それからほぼ全ての通信や他の機能を排除して戦闘にだけ突き詰めればこれくらいの能力は出せる。ただしバグの発見とかその他の処理速度に関しては致命的なんだけど。

 他の全てを犠牲に戦う事だけを突き詰めた結果が阿修羅。こと戦闘に関しては俺と同じ発想の奴ぐらいしか渡り合えないだろう。まぁ、まだこういう場所じゃないと使えない欠陥品ではあるんだけど。シャングリラを攻略するためには、こういうのも必要だろうという事で産まれた一作だ。大きな欠点はこれに移行するまでに五秒も使う事か。

 実戦で使うには五秒は痛すぎる。そもそも、ハッキングで戦闘なんてたまにしかないしな。見つかったらお終いが基本で、それに対抗できるのがヴァンダル。だからこれはそれの紛い事にしか過ぎない。


「まっ、偽者のヴァンダルでもお前に対抗をするぐらい許される、だろ!」

「なら、俺様も本気でやってやらぁ!」


 それを悔し紛れの言葉とは思わないし、思えない。そもそもキングのアバターは一緒に行動していても不可解な部分があった。それがどういう事なのか、今なら多分予測がつく。

 俺が走り、キングも走る。その速さは先ほどよりも数倍。周りの観客は何が起きているのかよくわからないかもしれない。例えるならヤムチャ視点だろうか。


「ていうか、お前こそ何してんのかわからねぇんだけどな!」


 さっきはあれで本気だったとしても、これ程の速さじゃなかった。何で、俺と同じぐらいの速さに成れてるのか。


「自分で考えてみろよ、リーダー様!」


 俺の前に回りこまれた。数値ではこっちが勝っていても足の運び方を熟知している方がそりゃ勝つか!

 俺のスピードと向こうの反動を利用するつもりなのか右腕を構えてる。左腕もよくよく観察すれば出そうとしているのが見えた。名前は覚えてないけど、確か柔道か空手の技か。

 これを避けようと思えば避けられるだろうけど、避けたところで向こうが俺の動きに目を合わせられるようになれば性能差があったところで意味ないしな。なら、この一撃に賭けるしかないか。

 良くて相打ち、悪くて俺の負け。分の悪い賭けだなぁ。まっ、どうにでもなるだろう。


「てめぇの中で寝ておきなぁ!」

「棺桶だけにとか言わないでくれよ!」


 ただ、突っ込んだ。

 この攻防は俺も正直理解できなかった。ただ四本あった腕の内、二本はキングの片腕を掴むことに成功して、二本の腕は顔狙いだったんだけど見事に空振りで。俺の左腕は一本もぎ取られて。

 けど、右腕でキングの下顎を打ち上げることが出来たのは理解できた。

 ……いってぇ。激痛で意識が吹っ飛びそうなんだが。どうしてくれんだこれ。


『な、何が起きたのかわからない! わからないが、キング吹っ飛んだー! いい試合、いい試合だ! キング、起き上がれるのかぁ!』


 歓声とドヨメキの声が会場を支配してるんだろうけど。俺も正直余裕があるわけじゃない。だって腕一本なくなってんだ。六本から五本になったって言うと別にいい気もするけどいや普通に駄目だって。痛い痛い。マジ痛い。あ、そうか。ここの部分の痛みを切り取ればいいのか。あぶねぇ。


『流石、阿修羅。私と棺桶の最高傑作。でも使い方甘いわね』

『俺あれ知らねぇんだけどー。何で俺に手伝わせなかったんだー?』


 アンタに手伝わせたら無駄な機能つけるからだと叫びたい。まだふらふらしてて無理があるけど。


『このまま起き上がらないと、キングは負けが決定してしまうぞぉ! どうなる、どうなるキングの無敗神話!』


 キング頑張れーやら立ち上がれーやら色々な声が聞こえてくる。あー。やっぱり王者な事はない。王者のキングって言葉が重複してるような気がするよね。


『やっぱりハルモさんすげーっす! 私の惚れた男っすよー! うちに来て私をファックしていいっすよ!』


 俺が誤解されるからやめろ。俺はあんな奴の知り合いじゃない。というかアイツの存在を記憶の根本から消し去りたい。

 嫌だなぁ。誰かにあいつについて聞かれたら怖いなぁ。


「……俺の、負けとか、言ってんじゃ、ねぇ!」

「……お前、実は人間じゃねぇんじゃないのか?」


 今の一撃は、綺麗に決まっただろうに。それを耐えて立ち上がるっていうのは、並じゃない。

 痛覚を切っているなら納得できる。けどあの痛みが演技だとしたら、こいつは役者として名を残せるはずだ。


「はっ。そん、なわけねぇだろう、が。俺は、キングだぜ!」


 完璧に、立ち上がりやがった。意地、気合か、根性か。どれにしたって厄介極まりない。


「なら、決着付けようぜ」

「当たりめぇだ」


 互いにふらふら。出来るとしても後一回全力出したら終わりだろう。

 それは向こうだって同じだ。こっちの一撃は、現実世界に持ち出せたらダイヤモンドだって潰せるぐらいの一撃なんだ。向こうの耐久力が気になるレベルの一撃を入れたってのに。

 周りがやけに静かになる。俺とアイツの間だけ静かになってるのか。それとも実際に静かなのか判別はつかないけど。

 でも、とりあえず互いの一撃で決着は……。

 ついた。


「意地を見せたな。キング」

「キングだしな。……てめぇも成長しやがったじゃねぇか」


 キングが倒れる。俺はほとんどっていっても力の込め様がなかった。それは向こうも同じで。こういう演出をするためだけに立ち上がったって考えると、エンターテイナーだ。

 倒れたキングを肩で担いで、司会を見てマイクを寄越せと指示した。決着の言葉を言うのも忘れて司会者は投げ渡してくれた。ありがたい。


『いい試合だったろ? なら、俺たちを褒め称えてくれ』


 試合結果は俺の勝ち。でも面白さを追求したキングは勝負には勝っただろう。引き分けかなぁ。これ。


『ついでに聞いてくれ! 俺らチームは近いうちに、シャングリラに挑む!』


 歓声が一転して静まる。いいね、こういうの。病み付きになりそうだ。


『聖域に挑む意味ぐらい俺にもわかってる、けどな! お前ら、俺らと一緒に伝説を作りたいって思わねぇか! 思った奴は俺に声かけてこい! 俺から言いたいことはそれだけだ!』


 多分トランペットあたりが声を上げたと思う。それに釣られて会場の半分が大いに湧いてくれた。あー。さっきまでの事は訂正だ。トランペット。お前はそれなりに良い奴だよ。

 俺が指示しなくても真っ先に声を上げてくれただろうし。

 とりあえずマイクを思いっきり司会者に投げ渡して俺はキングを抱えたまま入場口から出て行く。いや、もう退場口になるのかね。


「……あー。くそ、頭いてぇ。てめぇ本気で殴りすぎだ」


 気がついたらしくキングがぐったりとしながら愚痴を言ってきた。この状態で何かを言えるとか、根性すげぇな。流石に慣れてるから耐性でもついてるのかもしれないけど。


「ほぼ無意識だから加減なんかできねぇって。それで、協力はしてくれるんだよな?」


 条件っていうのが気になるけど。

 まぁ、流石に言葉にした事を翻すようなことはしないだろ。そこまで、子供じゃない。


「しゃーねぇしな。まっ、その前に。お前明日休みか?」


 明日平日だぞ。休めなくてはないけどさぁ。


「あー。まぁいいぜ。んで、それがどうかしたのか?」


 休みと関係することってなんだろう。……自分の家に来いとか? この五年間一度も会った事はないっていうのに。

 どういう心境の変化だろう。


「金渡すから俺の家来い。駅までくりゃ迎えに行くからメールかなんかくれりゃいい。ついでにお前の名前と顔写真とかも渡せ」


 そこは駅についたってメールしてからわかると思うんだけどなぁ。まぁいいや。それが要望なら跪いて応えてあげよう。王様だしな。


「へいへい。わかりましたよ。明日行ってやるけど。あんま遠くないよな?」

「新幹線で来い」


 だりぃ。まぁ、ただで乗れるって考えればまだマシ、か? 席取れるのかわからねぇけど。……とれなかったら鈍行で来いなんていうんじゃねぇよな。それは勘弁して欲しいんだけど。


「……ちなみにどこの県?」

「あ? 神奈川だよ」

「普通に鈍行か快速でいけんじゃねぇか」


 俺をどこ所属だと思ってたんだ。


「……マジかよ。神奈川って田舎だと思ってたんだけどよ。都会なのか」


 こいつ何言ってるんだ。いや、まぁ神奈川でも田舎にしか住んでないならそういう認識でも間違いはないのかもしれないけど。

 田舎から出たことのないって色々突っ込みどころ満載だぞ。


「第二の東京って言ってもいいんじゃねぇの。まぁしらねぇけど」


 中華街とか九龍城とか有名なんだよな確か。後者はかなりうろ覚えだけど。


「はーん。っと、そろそろ降ろせ」

「礼ぐらい言えよ」


 一応丁寧に降ろしてから愚痴ってみる。まぁ聞きゃしないんだろうけどさぁ。

 しかし、神奈川ねぇ。ここからなら場所によっちゃ二時間ぐらいか。夕菜に頼んで明日はどうにかずる休みする事にしよう。まぁ休む事に文句を言われた事はないんだけどさびしそうな目で見てくることあるんだもんなぁ。

 ちょっと勘弁して欲しい。女の子のあんな表情に男は敵わないしなぁ。世界は不条理だ。


「メールしとくから明日来いよ。昼頃に来れば何か飯でも食わせてやるよ」

「はいはい。まぁ、そんぐらいに着くように行くよ」

「おう。全力で来い」

「そんな無茶な……。お前の名前とかは教えてくれないのか?」


 当日駅で会ったら聞けばいいのかもしれないけど。まぁ、それもそれでなぁ。正直聞かなくても支障はないんだけど。

 ……どうでもいいか。


「こっち来たらな」

「了解って事にしておいてやるよ」


 しかし。計画は最初から波乱万丈。予想外の事になった。まぁ、とりあえず成功したからいいんだけど。事前によく練っておいてもこうなるんろうなぁ。

 まぁ、何も計画してないよりかは遥かにマシなんだろうけど。


「んじゃ、また明日な」

「ああ。じゃあな」


 キングが裏口から出ていったのを見送ってから溜息を吐く。やる事はまだ沢山あるんだよなぁ。これから兎さんと阿修羅についてを聞いて、法一さんに参考意見を聞いて。

 通常から阿修羅に移行する時間を最低一秒にしないと怖すぎるし。そこらのプログラムの調整も甘いしなぁ。トランペットに頼んでおいた事も出来てるか確認とらないといけないしシャングリラに攻略に参加したいって言う奴も何人かいるだろうからそいつらにも連絡とって……。あー、もう。今年は初めからやる事沢山で、時間が足りなさすぎる。

 千さん救出に近づいているのが実感できて、良いことだけど。

 何だろうね。変な予感がするのは。

 例えるなら、真綿でじわじわと包囲されてるような感じだ。


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