Error継続中 ③
「時間が経つのって早くないか?」
「こっちは長く感じたぜ。心が砕かれる覚悟はできたか?」
互いに通路で会って軽口を交わす。こっちは棺桶。向こうはトランプ。シュールな光景な事で。
こっちは棺桶から人の形をした奴が出てきて、向こうはトランプから人が浮き出すんだから面白い光景にはなるだろう。
まぁ、その度肝を抜かせてみせるけどな。
「ルールはツールの使用なし。それ以外は何でもありだしな。俺様のアバターは戦闘特化だ。てめぇのアバターは、万能型だろ? 勝てると思っちゃいねぇだろうけど善戦はしろよ」
まぁ、そうなんだよね。こっちの通常時はバグを見つけ出す事と情報を集める事に特化してて、戦闘時には何にでも対応出来るバランス型。キングの場合、通常時は逃げる事に特化してて、戦闘時にはプログラムの破壊やアバター同士の戦闘に特化している戦闘型。
どんな状況でも対応できるけどどんな分野にでも特化に劣るこっちはここじゃあ不利だ。
簡単に言うとヤムチャとベジータ戦の悟空ってレベル。読んでない奴にはわからない例えなんだけど。
「まっ、期待してろよ。お前を倒して観客を湧かしてやるさ」
オッズは八対二だからもし勝てれば大儲け出来るだろう。兎さんは俺っていうよりも自分で作ったアバターに賭けてるはず。
「はっ、言ってろクソガキ」
「言ってるさ、大人」
分かれ道になったので、そこで別れる。ここで別れて、後は会場で会うだけ。
試合開始の合図と共に始まるけど、さて。まぁいけるだろう。反則ギリギリになるだろうけど問題ない。
『常勝無敗の男、キングー! 今回は現チームリーダーを相手にどう戦うのか、遠目からでもこの試合にかける意気込みは満々だぁぁ!』
なんか聞こえてきた。ああ、これで言われてから入るのか。キングを最初にしたのは俺がリーダーという事、そしてこういう舞台が初めてだからだろうか。まぁよくわからない意図があったんだろう。どうでもいいけど。
『そして今回は主催のメインディッシュ! 世間を大いに騒がせた、シャングリラからの帰還者! ハルモニアー!』
キングと同じぐらいに場が湧いた気がする。まぁその言葉と一緒に中に入ると歓声が更に大きくなった。まぁ、それなりに顔を売ったり色々な奴に恩を売ったりしてきたしな。
それもこれも千さんのためだけど。
『いざ始まる大勝負! これはどちらが勝つのかぁ! それではいざ尋常に!』
言葉が全て言い切られる前に、キングの姿が変化していく。四角いトランプがくるくると回転を行い回転が途切れる頃にはすでにトランプは小さく変化しており、いつの間にか中に描かれていたキングの絵柄が飛び出している。所要時間はこういう場なのだからか三秒。本来ならノータイムでいいはずだ。
そこら辺、こっちは地味なんだよね。
俺の視界は一瞬だけ暗くなって、棺桶の蓋が開かれていくと同時に光が目に飛び込んだ。俺は外に出て身体を動かす。戦闘時は、俺の姿を模した物だ。正直いい物が思い浮かばなかったっていうのはある。
『レディ、ゴー!』
両方の準備が終わったのを確認して司会者が声を張り上げる。まぁ、そこは最低限なんだろうけど普通に考えてこういう事が出来るような場所に行った事がないから温く感じられる。
『最初に、キングが動いたぁ! 早い!』
いや。このぐらいなら普通だろう。試合場じゃ数値に制限を加えてるけど普通はこんなもんだ。……いや、最近のハッカーはこのスピードを知らないのかもしれない。
スピードは単純に上げればいいだけじゃなくて他の部分にも影響を及ぼすから上手に弄らないと面倒くさいんだよね。
『突撃を、なんとハルモニア捌く!』
流石にあれに当たったら痛い。痛覚は普通にしてるし。アバター事態は少し傷を負うぐらいだけど精神的に骨折したなんて情報が入ったらどうなるだろう。
「はっ、腕は鈍ってねぇみてぇだな」
「師匠がお前だったしな。そりゃ鍛えられもするさ」
師匠っていうか、ほぼ放置だったけどな。
とりあえずキングの攻撃を避ける事だけを中心に行う。まだキングも肩慣らしなのかそれ程の速度でやってこないのが救いだ。とは言っても現実に考えればこのスピードでも時速三百キロは出てるから生身の精神状態だと対処できない。アバターに初めから感覚の倍加処理をしておいて良かったなぁ。
「攻撃は、しねぇのか?」
「格闘技やってる奴相手にして迂闊にできるかっての!」
自動で格闘技を行うプログラムはあるけど、それはあくまで補助的な動きしかなさない。生身で格闘技をやってる、もしくは精神だけで格闘技を行う奴は本当に手強いんだよね。
聞いただけだとキングは現実でボクシングと柔道をやってたらしいけど。
さぁて、どうしたもんかな。
『ハルモニア、避けている、が! 避けるだけしか出来ていない! やはり格闘戦ではキングに部があるというのかー!』
そりゃねぇ。観客も俺に頑張れーとか言ってるけどそう簡単に根性論でどうにか出来るもんでもないしねぇ。
『ハルモさんがんばーっすよー! 勝てたら私の身体をプレゼントっすからー!』
なんか変な声援が聞こえてきた気がするけど聞こえなかった事にしておく。俺のログには何もないな。うん。
『解説のスプリングラビットさんどうみますか?』
『棺桶にはかなり厳しいんじゃないかなぁ? キングもまだ全力じゃないみたいだし』
……あの人何やってんだ! ていうか兎さん目当てに来た奴もこの会場に何十人か居るだろ! 確かどこかで狂い兎を守る会とか見た事あるし!
『では同じく解説の法一さん。どう見ますか?』
『いやー。きつくねー? 仕事早めに終わらせてきたんだけどさー。これならやってもやらなくても結果一緒なんじゃねー? なんか秘策ぐらい用意してるんだろうけどー』
この人には俺の秘策っていうか秘密兵器を見せてないのに分かるのは、まぁ当然か。
俺がキングに挑むのに何もしてないはずないし。
「って事だけどよ、反撃しねぇのか?」
「まぁ魅せるために少しぐらいやらないと、な!」
攻撃を避けた瞬間に蹴りを行った。三発ぐらい。顔と腹と脚。三段蹴りとでも名付けようか。もうある気もするけど。
「っと、危ねぇなぁ」
顔は防がれて脚は避けられた。腹には当たったけどそこまで痛くないようだ。防御の数値は低いはずなんだけどなぁ。……もしかして、俺と戦うために防御の数値高めたか?
「んじゃお返しだ」
右足を踏み込むのを確認。腕を捻って腰を落としたのも目視できた。けど避けられるかどうかは別問題なんだっての!
どうにか腕を胸の前にもってきて拳を右腕側で防いで。
キングが一瞬で遠くなった。ついでに背中が痛い。って事は、俺が吹っ飛ばされたってのか。なんだ、こいつ。数値的には速さで二。攻撃が一。防御が五。重さに二ぐらいの割合だと思ったってのに、まさか防御捨てて普通に我慢してるだけかよ!
「痛みには慣れてんでな。外傷なんて大した物でもねーての」
速さ二。攻撃六。防御一。重さ一って所だろう。今の打撃を考え見るに。実際にはもっと細かい割り振りだろうし一撃を手加減したのかもしれないけど。
「おっと、残念だけど今のはメラじゃねぇ。俺のメラゾーマだ」
つまりそれで全力って事か。強者の余裕なんて事をするはずがないから、その言葉が嘘なんて事もある。こっちの油断を誘う情報戦って所か。
『キングの一撃入ったぁ! ハルモニア、一撃が余程痛かったようで動きが鈍いぞぉ!』
『でもよく一撃耐えられたわね』
『防御重視にしてたんじゃねー?』
根性とやせ我慢だよ。放っておけ。とりあえず立ち上がってキングに向かって走る。
「そんなのろのろ動いてっと、もう一撃おまけでいくぞ?」
「流石に簡単にはくらわねぇよ!」
走った過程も見えなかった。こいつスタンドでも使ってんじゃねぇだろうなってぐらいには。
ほぼ勘でしゃがむと、真上を腕が通過していきやがった。今の下手すりゃ首が吹っ飛んで強制遮断くらう所だぞ!
「あっ、ぶな!」
「大人しく首切られておけって」
観客が大いに沸き立ってて結構。俺への声援も多くて結構。ただ、こんな所で全力出すなんてもったいない。まぁそれでも少しは抑えめなんだろうけど。
「どうにか一撃入れてぇなぁ」
さっきの一撃で痺れてた腕がどうにか回復してきた。走りまわった甲斐があるってもんだけど、こんなに時間かかるなんてどうにかしてんじゃねぇかあの威力。
「さっきのはサービスだっつーの。これ以上には料金が発生すんぜ? 俺のあつーい愛って名前の一撃がなぁ!」
一撃いれて一撃返されるなんて割にあわねぇ。でこぴん入れたらロードローラー入れたとか言うレベルと言い換えてもいい。それ程の実力っていうか、性能差だ。そもそも実力的にもそのぐらいの差があっておかしくないんだし。
「御免被るとしか言えねぇよ!」
今の所紙一重でどうにか避けてはたまにフェイントを引っ掛けてるけど良い一撃が入る気がしない。手馴れ過ぎてるだろう。
……あ、そういやあれは何かに使えないだろうか。
「キング、兎から伝言だ!」
「あ? んだよ!」
「確か『キングも苦労してるね』だと!」
正直意味はわからないけど、あれは兎さんなりのそれを言って隙でも作れって事だったのかもしれない。どういう意図かはわからないけど。
「……! な、あの野郎!」
激昂してか大ぶりの一撃っていうか隙だらけの一撃をやってきたので、とりあえず思いっきり腹を殴った。全力だ。今の全力だよ。これで吹っ飛ばなかったらそれはそれでどうしよかと思ってた所だ。
「っ!」
まぁ、吹っ飛んだから結果オーライ。これを逃したら次の機会は永遠にこないだろうから、やっちまおう。
「キング、この勝負俺がもらう」




