魔導王…従者に小馬鹿にされる。
「惜しかったな」
「か、間一髪でした・・・」
ターゲットたる吟遊詩人、スチュアートを文字通り射程圏内におさめた俺だったのだが、魔法発動直前に・・・それこそ音すら置き去るほどの速度でやって来たイリスに見つかった結果、辛くも『任務』を遂行することが出来なかったのだった。
「まったく・・・本当に見つけて制裁加えようとするなんて・・・」
「いや・・・流石の俺も、ガチで殺す気までは無かったからな?」
「でも・・・何かしようとはしてたんですよね?」
「まあ、ケツにちょっと火を付けたり、有り金全部炭にしたり、金輪際歌を歌えないような呪いを掛けたり・・・ま、その程度なら許されるかなと・・・」
「例えが具体的かつ、より重くなっていっているところに、私は恐怖を感じますよ・・・」
イリスは自身の行動が、割とガチ目に人1人の人生を救えたのだということを改めて実感し、ホッとするとともに肩の力を抜く。
そして、ここ『王都パトリア』でも有数の繁華街『サンベルク通り』を賑やかす様々な露店に目を向けた。
「いつも活気に溢れている場所ですけど、やっぱりここ数日の盛況さは目を見張るものがありますね!」
俺にそう問いかけたイリスは、興奮を隠すことなく四方八方に視線を走らせる。
(「・・・あれ?もしかして、コイツが余所見してる今なら逃げられるんじゃね?」)
そんでもって、件の吟遊詩人に『お仕置き』してやれるんじゃね?と、瞬間的に思った俺だったのだが・・・
「うわあ!クレープですよ!凄く美味しそうですね!あっ!あそこには鳥のパイも売ってます!あっ!向こうに何やらのぼりが見えますよ・・・えっ!?何でしょうアレ?『何でも焼き』って・・・?ちゃんと審査通ってるんでしょうか?」
なんというか、まるで今日辺境のド田舎からやって来たかのように、初々しい反応をする目覚まし娘のテンションに当てられたせいだろう・・・自身の中に凝っていた負の感情はいつの間にか綺麗さっぱり無くなってしまっていた。
「そうか・・・もう『大祭』の季節か」
「えっ・・・何です今更?まさか知らなかったってことは無いでしょう?」
「いや、知らなかったぞ」
「ええっ!?」
俺のその発言に対し、イリスは分かりやすく驚愕し顎を落とした。
「いやいや!?先日・・・というより先月あたりからずっと、ここら辺は飾り付けなんかで人が出入りしてたじゃ無いですか!?ほら!アソコに見えるモニュメントやアーケードも、昨日今日突然出来たものじゃないんですから!?」
どうやら彼女は、ここ最近ずっと祭ムード一色だったこの都市の現状を知らないと言いはる俺のことが信じられないらしい。
俺はそんな彼女の不可思議なものを見るかのような表情に向き直ると・・・
「はぁ・・・分かってねえなぁ」
と、嘆息混じりに返答を返した。
「えっ・・・何ですか?何で私が呆れられなきゃいけないんですか?私・・・何かおかしなこと言いました?」
自身の不出来を嘆かれて、目を白黒させるイリス。
(「コイツの表情の豊かさは、ホント見飽きないな」)
と、そんなことを思いつつ、俺は彼女に何を分かってないのか、懇切丁寧に説明してやることにした。
「いいか、イリスよ!俺は・・・・・・・・・偉いっ!」
・・・一瞬、自身の周囲が静まりかえったような、そんな気がした。
といっても、当然現実にそんなことが起こっているわけではない。
祭の喧噪は依然として、途切れること無く耳朶を打ち続けている。
なら、一体何が自身に静けさを感じさせたのかといえば・・・それは目前で、「はぁ?」と言わんばかりの表情をしながらも、それ以上の反応を返さないイリスの存在であった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
イリス・・・ようやく発声。
えらく時間が掛かったこと、また、その余りにも長すぎる間が彼女のどのような心情を表しているのかについては今は考えないこととし、俺は話を続けた。
「俺ほど偉い者ともなれば、こんな所に自ら足を運ぶ必要などこれっぱかしも無いのだ!分かるかエリス。まあ、偶にゼッケントのババアとかグランのジジイとかに呼び出されることはあるけど、それも『転移石版』使えばチョクで行けるしな。つまり・・・王都で祭があるだとか、そんなことすら知らない俺こそ、この世の真の勝者なんだよぉ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い・・・これまた長い沈黙。
言いたいことを全て言い切り、何となくスッキリした俺が、いつの間にか天を見上げ、拳を突き上げたポーズから元の姿勢に直り、そして改めてイリスの表情を伺う。
すると・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
こんなに開ける必要があったのか?と思うほどの長い間を挟んだ後に、ようやっと彼女の声帯が意味ある音を鳴らす。
(「・・・うん、わかるぞ。この「はぁ」はアレだ。なんかもう、色々と諦めたヤツだ」)
例えるなら・・・そう!外に放置して置いた生ゴミをカラスに荒らされて、しっちゃかめっちゃかになっている状況に遭遇したときに出る「はぁ」と同じだ。
「もういいや・・・放っておこう」の意味合いがあるヤツだ。
「あ、そういえば、そのゼッケント様が呼んでましたよ!用があるって」
「・・・お前、何でそういうことを早く言わないの?」
そう言われればちゃんと起きたぞ、俺・・・。
「そ、それは・・・と、ともかく!行きますよ!『学校』に!」
「え、学校って、ここから?歩いて?」
どんだけ距離あると思ってんだ?
飛んじゃダメ?
「駄目です。悪目立ちするわけにはいかないんですよ。一応、貴方は有名人なんですから、派手な行動は慎んで頂かないと!」
「こんなことなら、チョクで『学校』に跳んでおけば良かった・・・」
「何言ってるんですか?目と鼻の先でしょ!ほら、走りますよ!」
この短時間で、俺のあらゆる面を諦めた少女は、それでもなお、俺を見捨てず手を引き、そして走り出す。
「ちょっ・・・ちょっと待て!速いって!お前、俺を何だと思ってるの?野生動物じゃないんだぞ!?」
「そうですね。人間ですね。出不精が祟って運動不足気味の魔導王様ですね。さあ行きますよ!」
「ちょっ・・・まっ・・・マジで、スピード落とせぇ!!!」
一応、俺と彼女との関係は、間違いなく俺が『主』で彼女が『従』であるはず・・・。
だが、この状況を見た祭客のどれだけが、その上下関係を正確に掴んでくれているだろう・・・?
(「繋がれた手・・・それが手綱にしか見られていないのでは?」)
そんな危惧が解消されることは無く、俺は彼女に引きずられるように走り出したのであった・・・。
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