前世の俺、人間目覚ましに叩き起こされる。
「こらーっ!起きて下さーい!」
魔導王である俺、レドヴァンの朝は・・・遅い。
いや、遅いというのは語弊があるだろう。
時間に縛られる様な生活をしていないが故、太陽の位置など気にすることの無い生活をしている自分にとっては、何時寝て何時起きるかなど気分次第なのだ。
眠くなったら床につき、腹が鳴ったら起きる。
そんな自堕落な生活が許されるのが、魔法を極めた者・・・即ち魔導王なのだ。
(「なのに・・・ソレなのに・・・!」)
「もーっ!まだ起きない!よーしこうなったら・・・不承、イリス=リバレット。謳わせて頂きます!せーのっ・・・『その雷は雲を割りぃ~幾千万の敵屠るぅ~その火炎で地は裂けてぇ~大地にたむろう敵沈むぅ~あーああーあ我らの英雄ぅ、魔導を極めし男なりぃ、あーああーあ我らの光、魔導王ぅ~レドヴァーーーン!!!・・・・・・・・・その嵐ぃはぁ・・・」
「・・・って眠れるかぁ!!!」
どうやら俺自身を題材にした曲を耳元で歌われ、そのうえ2番まで聞かされそうになれば流石に起きざるを得ない。
俺はその美声の持ち主たる銀の短髪の少女にツッコみを入れ、ようやく歌を停止させた。
「あっ!起きましたぁ!おはようございます!レドヴァン様!」
「「おはようございます!」じゃねえよ!一体何だ、今の歌は!?」
「何って・・・まさか知らないんですか?『魔導王レドヴァン』を?」
知ってるよ・・・だって俺のことだもん。
「知らないって何?お前は俺に、俺を知らないのかって聞いてるの?アホなの?」
「違いますよ!今巷で大流行中の歌ですよ。何でも流れの吟遊詩人が歌い出したものらしくって、ソレがいつの間にやら知らぬ者はいないって言われるくらいに広まってるんですよ!・・・レドヴァン様、本当に知らないんですか?遅れってるぅー!」
・・・いつの間にか作られていた俺の賛美歌。それを知らないが故に罵倒される・・・そんな魔導王がかつて居ただろうか?
「・・・その吟遊詩人とやらは、何処に行った?」
「え、何処にとは?」
「・・・そいつは今、何処にいるんだ?」
「今ですか?いやぁそんなの分かりませんよ。なんてったって吟遊詩人ですからね。未だ王都にいるとは思えませんよ。大体探してどうするんです?」
かわいらしく小首を傾げるイリス・・・改め『人間目覚まし』がそう問いかけてきたので、俺は未だ眠気を引きずっている頭で、それなりに理性を働かせて思考した結果を端的に告げた。
「決まってるだろ・・・ぶっ殺す!」
「決まってませんよ!」
バシッ!
スナップの効いたツッコみが俺の頭部を叩く。
・・・今まで、部下に頭を叩かれた魔導王がいただろうか?
(「賭けてもいい。絶対にいない!」)
胴元も対戦相手も存在しない絵札遊びに対し、俺は心中で持てる財産の全てをベットする。
(「絶対勝てる!絶対勝てるから!もし勝ったら、俺に睡眠を・・・どうか睡眠を下さい!」)
しかし、人間目覚まし(肉体言語機能付き)が静まることはなく、むしろいっそう忙しなくがなりたてるのだった。
「何ですか!?ぶっ殺す!?ダメに決まってるでしょ!どうしてそうなるんですか!?」
「いやいや、俺の許可も取らず、勝手に変な歌作って広めたソイツは、俺を不快にしたその歌で金稼いで、飯食ってるんだろ!酒飲んでるんだろ!腹立つじゃん!だから探す!そして・・・そんな糞みたいな歌広めたことを後悔させてやる!」
「・・・またおおよそ魔導王らしからぬ発言を。いいですか、レドヴァン様!貴方は5系統の魔法、その全てを極めし魔法使いの極致、皆の憧れなんですよ!そんな人が、歌にされたのが恥ずかしいからって、その吟遊詩人の暗殺を企てるなんて・・・前代未聞ですよ!」
それは、今まで歌にされた魔導王が存在しなかったからだろ!
「・・・って、ちょっと待て!俺は別に恥ずかしいとかそんな理由で殺しに行くんじゃないぞ!俺は・・・」
「あーあ、ホント恥ずかしいです。貴方のお世話係を仰せつかって早3年・・・。20を過ぎた男が、まるで思春期みたいなこと言って、周囲を困らせる。その原因の一端はきっと私にもあるんでしょう。ああ・・・本当に不甲斐ないです。これ程まで長らくお仕えしておきながら、私はどうやら躾けに失敗したようです」
ヨヨヨ・・・と泣き崩れるような仕草を見せ、その場にしゃがみ込むイリス。
俺はそんな彼女の頭におもむろに手を置くと・・・
「探索」
「へっ?」
魔法を発動・・・イリスの記憶から、件の吟遊詩人の容姿や特徴、彼女の知る限りのこの男の出現場所などの情報をピックアップする。
そしてほどなく・・・
「よし・・・多分、この時間ならまだサンベルク通りにいるな」
と当たりを付けた俺はイリスの頭から手を離す際、先程のお返しとばかりに軽く叩くと素早くベッドから起き上がり、未だベッド脇で蹲っている彼女の横を通り過ぎた。
「よし!コイツを『狩る』のを今日の俺の仕事にしよう!」
「えっ、ちょっ、待って下さい!嘘、嘘ですよね!本当に行くつもりですか!?」
「・・・何言ってるんだ?さっきからそう言ってるじゃねえか?」
「・・・そんな透き通った目をしながら、人を殺しに行こうとしないで下さい!・・・えっ!ちょっとホントに・・・」
「んじゃ、行ってくる。直ぐ片付けてくるからっ!」
キラーン!
「そんな良い笑顔見せなくてもイイです!ちょっと!本当に考え直し・・・」
「行ってきまーす」
「行くなー!!!」
目覚ましの本領発揮と言わんばかりの叫び声・・・
しかし、当然、大の男の足を止めるほどの効果は無い。
俺は自室の中央に置かれている『転移石版』に乗ると
「転移、サンベルク」
と一言。
淡い緑色の光に包まれた俺に向かって、まだ何か言っているイリス。
その声も最早聞こえない。
俺は何だか久々に高ぶった気持ちを、思わず口に出していた。
「よおし、待ってろスチュアートとやら。直ぐ行ってやっからな!」
先程判明した件の吟遊詩人の名を口ずさむと、その直後、俺は自室から姿を消す。
自らの視界が暗転する・・・その直前まで、人型目覚ましは何かを訴えていたようだったが・・・
しかし、その願いが俺の耳に届くことは終ぞ無かったのであった・・・。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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