# 第九話 **「黒狼の砦」**
# 第九話 **「黒狼の砦」**
王都を出発して五日。
レオンたちは、北西の山岳地帯へと足を踏み入れた。
目の前に現れたのは、巨大な岩山に築かれた要塞。
黒い城壁。
切り立った崖。
一本しかない橋。
そして、その上には無数の見張り兵。
「……これが黒狼の砦。」
レオンは思わず息をのんだ。
ガイルが頭をかく。
「真正面から行ったら、三日もたずに全滅だな。」
セリアは静かに望遠鏡を下ろした。
「いいえ。」
「半日です。」
「そんなに!?」
「はい。」
兵士たちは青ざめる。
「どうするんだ……。」
---
その夜。
レオンは砦から少し離れた丘へ一人で歩いていた。
そこには、小さな畑が広がっていた。
畑仕事をしている老人がレオンに気づく。
「旅人かい?」
「はい。」
「この近くに住んでいるんですか?」
老人は寂しそうに笑った。
「昔はな。」
「今は盗賊どもに畑を取られてしまった。」
「毎月、食べ物も金も奪われる。」
「逆らえば殺される。」
レオンは静かに拳を握る。
「そんなことが……。」
老人はレオンの顔を見つめた。
「若者。」
「頼む。」
「もう誰も泣かせないでくれ。」
その言葉が、レオンの胸に深く刻まれた。
---
翌朝。
作戦会議。
兵士たちが地図を囲む。
「隊長。」
セリアが真剣な表情で言う。
「砦には秘密の地下水路があります。」
「え?」
「昔、この地方の人たちが避難用に造った通路です。」
「今は誰にも知られていません。」
レオンの目が輝いた。
「そこから入れるのか!」
「はい。」
「ですが――」
セリアは言葉を切った。
「通れるのは二十人ほど。」
「残りの兵は?」
「外で陽動します。」
兵士たちがざわつく。
「危険すぎる。」
「囮になるのか……。」
するとガイルが立ち上がった。
「その役目。」
「俺たち百人がやる。」
「ガイル!」
「隊長。」
「お前は中へ行け。」
「この戦いを終わらせるのは、お前の役目だ。」
---
レオンは兵士たちを見渡した。
誰一人、逃げようとはしない。
みんな笑っている。
「隊長。」
若い兵士リックが笑う。
「俺たち、前より強くなったでしょう?」
「だから安心してください。」
レオンは胸が熱くなった。
「……ありがとう。」
---
その夜。
月明かりだけが山を照らしていた。
「作戦開始。」
セリアが静かに告げる。
ガイル率いる百人が太鼓を鳴らしながら橋へ突撃した。
「敵襲だ!」
「正面だ!」
盗賊たちは大慌てで城壁へ集まる。
その隙に――。
レオンたち二十人は地下水路へ飛び込んだ。
冷たい水が膝まである。
暗闇の中を進む。
「静かに。」
セリアの小さな声だけが響く。
やがて一枚の鉄格子が見えた。
その向こうには、砦の中庭。
「ここだ。」
レオンは深呼吸する。
「みんな。」
兵士たちがうなずく。
「この戦いは、勝つためだけじゃない。」
「苦しんでいる人たちを自由にするための戦いだ。」
「必ず成功させよう。」
「はい!」
レオンは剣を抜いた。
「突入!」
鉄格子が静かに開く。
二十人の兵士が闇の中へ消えていく。
誰にも気づかれずに。
しかし、その様子を遠くの塔から見つめる一人の男がいた。
黒いマントをまとった盗賊団の首領――**黒狼**。
彼は不敵な笑みを浮かべる。
「待っていたぞ、レオン・クロード。」
「地下水路のことも、すべて知っている。」
「罠とも知らずにな。」
黒狼が指を鳴らす。
闇の中で、何十本もの弓がゆっくりとレオンたちへ向けられた。
---
## 次回予告
**第十話「黒狼の罠」**
地下水路は、敵が仕掛けた死の迷宮だった。
絶体絶命のレオンたち。
その時、セリアが誰にも明かしていなかった「もう一つの作戦」が動き出す!
「仲間を信じろ!」
運命を懸けた砦攻略戦、ついに決着へ!




