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試合が終わった瞬間、訓練場がざわついた。
「今の、反則じゃないか?」
「いや、でも効いてなかったぞ……?」
「術は通ってたはずだろ……?」
声が飛び交う。
ナム・タカーンは担架に乗せられている。
顔は青ざめ、さっきまでの余裕はどこにもなかった。
(反則しても負けるなんて可哀想な奴だ)
少しだけ気分が良くなった。
(これからは僕みたいに清く正しくやることだな)
僕は席に戻ろうとした。
その時。
「おい、雑兵」
呼び止められる。
振り返ると、騎士団長が立っていた。
白銀の鎧が光を反射している。
(また雑兵かよ)
「相手のナム・タカーンは反則をした。何か体に異常はないか?」
(あれ、意外と優しい?)
「はい。大丈夫です!」
僕は笑顔で答える。
「全く、卑怯な手を使うなんて情けない奴です!僕は正々堂々試合をしたかったというのに!!」
レインの目は輝いていた。
その瞬間。
なぜか空気が、止まった。
周りの視線が一斉にこちらに向く。
(ん、?)
騎士団長も黙ってこちらを見ていた。
その目は、言葉と違っていた。
僕の顔を見ている。
いや、
――目を見ている。
「……そうか」
短く、それだけ言う。
それ以上は何も言わなかった。
僕は小さく会釈して、その場を離れる。
(なんだったんだ)
少しだけ引っかかるが、考えるのはやめた。
椅子に座る。
試合はまだ続いている。
賭け事の無い試合見物は退屈だった。
⸻
一方で。
騎士団長はその場に立ったまま、レインの背中を見ていた。
「……団長?」
隣の騎士が声をかける。
「いや」
短く返す。
だが、視線は外さない。
(あの瞬間……)
確かに見た。
わずかに変わった気配。
そして、
赤く染まった目。
一瞬だった。
見間違いとも思えるほどの、僅かな変化。
だが――
(……記憶しておく)
小さく、そう結論づける。
⸻
その一方で。
少し離れた場所。
ティアは、黙ったままレインを見ていた。
銀の髪が揺れる。
視線は動かない。
(今の……)
胸の奥がざわつく。
試合の内容じゃない。
あの一瞬。
レインの何かが、変わった。
そう感じた。
理由は分からない。
でも、
見間違いではないと思った。
「……レイン」
小さく名前を呟く。
その声は、誰にも届かなかった。




