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僕の目は、まっすぐだった。
金。
それほど分かりやすい利益を前にして、迷う者などいるだろうか。
少なくとも僕は迷わない。
金貨十枚。
あれがあれば、しばらくかなり楽に生きられる。
人間関係の悩みも、人生整理も、一旦あと回しでいい。
やはり金は偉大だ。
「ルームマルコ対レイン! 第一試合、開始!」
訓練場に声が響く。
どうやらキノコ頭の本名はルームマルコというらしい。
だが長いので、心の中ではキノコのままだ。
相手は一歩前へ出る。
姿勢がいい。
構えも綺麗だ。
育ちの良さまで腹立たしい。
英雄コース所属という話も嘘ではないらしい。
(真正面は無理だな)
僕は即座に判断した。
英雄コースの剣術なんて、まともにやって勝てる相手ではない。
なら、やることは一つ。
油である。
ルームマルコは余裕そうに笑っていた。
腹立つ。
だが、油断してくれているなら好都合だ。
僕の油魔法は、この数ヶ月で少し成長した。
威力。
量。
持続。
操作の細かさ。
まぁ、僕はほとんど戦いを避けていたので、伸びたのはそこだけである。
なんとも僕らしい。
けれど――
それだけでも、戦いの幅は広がる。
ルームマルコが剣を抜く。
同時に地面へ手をかざした。
「土壁」
僕との間に、分厚い壁がせり上がる。
観客席から感嘆の声が漏れた。
なるほど。
遠距離魔法を防ぎ、そのまま剣の勝負に持ち込む気か。
賢い。
そして腹立つ。
僕は壁を見上げた。
高い。
だが、天井までは届いていない。
この最高級そうな天井に傷をつけないためか、上の方だけ少し空いていた。
(なるほどね)
僕は指先に魔力を集める。
生み出した油を、弧を描くように放つ。
次の瞬間。
「なっ!?」
向こう側から声がした。
僕が横へ回り込むと、そこには頭を押さえるキノコがいた。
綺麗に整えられていたキノコ頭は、油でぺしゃんこになっている。
見るも無惨だった。
少し面白い。
「き、貴様ぁ……!」
顔が真っ赤だった。
効いている。
かなり効いている。
キノコは怒鳴りながら壁を崩し、剣を抜こうとした。
だが、柄が滑る。
さっき飛ばした油は、頭だけではない。
全身に付いている。
「くっ……!」
何度か握り直し、ようやく剣を構える。
「この程度……僕の握力で!」
根性論。
嫌いではない。
その瞬間、僕は足元へ油を薄く流した。
キノコは手元ばかり気にしていて、対応が一瞬遅れる。
踏み込んだ足が滑った。
「え」
派手に転んだ。
綺麗に。
英雄コースらしい見事な転倒だった。
その拍子に剣が手を離れ、乾いた音を立てながら床を滑って遠くへ飛んでいく。
訓練場の端で、カラン、と止まった。
キノコの顔色が変わった。
自分の剣と、遠ざかった現実を交互に見ていた。
訓練場が静まり返る。
僕はゆっくり近づいた。
床に這いつくばるキノコが、悔しそうに顔を上げる。
「くそ!!雑兵野郎!こんな汚い戦い方で勝って本当に嬉しいか?!」
僕は少し考えた。
そして、至近距離から顔面に油魔法をぶちまけた。
「最高に気持ちいいよ、アヒージョ君」
悲鳴が響いた。
周囲は引いていた。
でも僕の勝ちだ。




