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(なんで、僕だけ入れないんだ……)
目の前で、人が普通に中へ入っていく。
話しながら、笑いながら、何もないみたいに。
(……僕だけか)
少し遅れて、そう思う。
もう一度、前に出る。
見えない何かに触れる感覚。
押しても、変わらない。
(……なんだ、これ)
考える。
攻撃、か。
いや――
ここは聖導王国の王都だ。
聖騎士団が巡回してる場所で、わざわざこんな所で何か仕掛けるとも思えない。
目の前は教会だし。
(……じゃあ、なんだ)
少しだけ引っかかる。
さっきの感触を思い出す。
壁みたいな、でも違う。
(……)
まとまらない。
(……領域、みたいなものか)
ぼんやり浮かぶ。
理由は分からない。
(神にでも、嫌われたかね……)
小さく思う。
否定する理由も、特に浮かばない。
どうやっても入れない。
もう一度だけ試して、やめた。
変わらない。
(……無理か)
少し間が空く。
人の流れから外れる。
「どうした?」
後ろから声をかけられる。
振り返ると学園の教師だった。
少しだけ考える。
「……ちょっと腹痛いんですよ」
「あー、大丈夫かよ」
「まあ、なんとか」
それで終わる。
そのまま、その場を離れる。
案内に従って、宿へ向かう。
石畳の道を歩く。
白い建物が並んでいる。
どこも綺麗で、整っている。
大きな宿が見えてくる。
広い。
装飾も多い。
入口には人も立っている。
(あれかー)
少しだけ思う。
近づく前に、別の方向に誘導される。
「一般コースはこっちだ」
指さされた先を見る。
隣に、もう一つ建物があった。
少し古い。
色もくすんでいる。
明らかに違う。
(……え、ああ、こっちか)
一瞬だけ間があって、
(雑兵だからって、格差がひどい)
(いや、中は意外といい、みたいなこと……)
少しだけそう思いながら中に入る。
空気が重い。
少し湿っている。
部屋に通される。
狭い。
空気がこもっている。
割れた鏡が壁にかかっている。
端の方は黒ずんでいた。
「……うん、ないな。」
ベッドを見る。
薄い。
というより、板に近い。
(ここで一週間かよ……)
少しだけ間が空く。
(……嫌なんだけど、これ)
そのまま横になる。
天井を見る。
汚いシミ。
教会のことが浮かぶ。
止まる。
入れない。
(……なんだよ、あれ)
小さく思う。
答えは出ない。
(ずっと腹痛ってのもな……)
(早めにどうにかしないと、めんどくさいな)
視線を横にずらす。
壁にかかった鏡が目に入る。
割れている。
歪んでいる。
なんとなく、そっちを見る。
(……?)
少しだけ違和感があった。
体を起こし鏡に近づく。
映っているのは、自分の顔。
その目が、なんだか
赤い。
見間違いかと思って、少しだけ目を細める。
変わらない。
(……なんだ、これ)
理由は分からない。
ただ、
さっきまでとは違う何かが、
そこにあった。




