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「……ダサい」
暗い部屋。
天井を見たまま、ぽつりと思う。
(……ダサいか)
否定はしない。
(……まあ、そうだよな)
小さく息を吐く。
それ以上は考えない。
考えたところで、どうにもならない。
目を閉じる。
そのまま、意識が落ちた。
⸻
朝。
体が重い。
(……だるい)
起き上がる。
鏡は見ない。
なんとなく分かるから。
⸻
教室。
朝のざわめき。
笑い声、机の音、どうでもいい会話。
全部いつも通り。
でも
少し遠い。
席に座る。
視線は机。
(……)
何も考えない。
考えないようにする。
音は入る。
でも意味として拾わない。
流す。
⸻
「おい、レイン」
声がかかる。
顔を上げる。
カイルとミレイ。
いつもと同じ顔。
変わらない。
そのはずなのに――
「自分より下だと思ってるから一緒にいるの?」
(……)
一瞬で思い出す。
さっきまで何もなかったのに。
急に、差し込まれる。
(忘れたいのに…)
思考が遅れる。
「顔死んでんぞ」
カイルが笑う。
「大丈夫か?」
(……違う)
すぐに否定する。
(そんなわけない)
その顔を見る。
いつも通りのはずなのに、
さっきの言葉が重なる。
(……違うはずだ、)
もう一度思う。
でも
ほんの一瞬、
引っかかる。
(……)
言い切れない。
「……ああ」
短く返す。
「大丈夫だ」
それだけ言う。
「ほんとかよ…
無理すんなよ?」
(……)
何も返さない。
視線を逸らす。
そのまま立ち上がる。
「どこ行くんだよ」
「……ちょっと」
それだけ残して、教室を出る。
⸻
廊下。
足音だけが響く。
(何悩んでんだよ…)
頭の中に残る。
消えない。
(……違うだろ)
何度も否定する。
(僕はそんなこと思ってない)
言い聞かせる。
でも
(……)
さっきの“引っかかり”が消えない。
(……なんでだよ)
少しだけ、苛立つ。
(……もういいだろ)
吐き捨てるように思う。
(……わかんねーよ)
思考を投げる。
放り出す。
(あーー)
それ以上考えるのをやめる。
⸻
授業。
黒板の文字。
先生の声。
ノートに動く手。
全部、ただの作業。
頭には入らない。
⸻
放課後。
空は少し赤い。
帰り道。
人はまばら。
(……)
歩く。
足音と風の音。
それだけ。
(……)
何も考えない。
考えないようにする。
でも
止まる。
(僕はどこで間違えたんでしょうか)
自然に浮かぶ。
抑えてない。
抑えられない。
(僕がティアと一緒にいたら、見劣りするのは事実)
視線は前。
(それに)
少しだけ下がる。
(僕のせいで、あいつの評価まで下がるかもしれない)
歩く。
同じ速さで。
(……言葉足らずだったのは悪い)
それは分かっている。
(けど)
少しだけ顔が歪む。
(……あんなんになるとは思わないって)
思い出す。
あの声。
あの目。
「……ダサい」
もう一度、思う。
否定はしない。
できない。
(……)
風が吹く。
視線はどこも見ていない。
それでも
足は止まらなかった。




