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書庫を出ると、廊下は静かだった。
夕日が差し込んで、床に影が伸びている。
足音だけが、やけに響いた。
(……なんなんだよ)
頭に残ってる。
さっきの会話。
(……いや)
(……考えるだけ無駄か)
視線を落として、そのまま歩く。
「レイン」
(……)
足が止まる。
止めるつもりはなかったのに、止まった。
振り返る。
夕日の逆光の中に、ティアが立っていた。
(……気まずい)
「……何」
少しだけ間を置く。
視線を逸らしたまま、
「……付いてきて、どうしたんだ?」
なるべく普通に言ったつもりだった。
「なんで避けるの?」
「……いや、別に」
少しだけ視線を逸らす
「普通だろ」
「普通って何」
(……だるいぞ)
「……合わないやつとは、距離取るだろ」
「私が?」
「……」
それで終わると思った。
「嘘」
短い。
「合わないんじゃない」
「なんか、違う」
(……は?)
「うまく言えないけど」
「避けてるっていうか」
「……下がってる感じ」
「……意味わかんないけど」
(……なんだそれ)
「別に、そんなつもりないけど」
「あるよ」
間を置かずに返される。
「目、合わせないし」
「さっきも、すぐ行こうとしたし」
「……」
何も言わない。
(……見られるだろ)
ふと浮かぶ。
(他のやつに)
(……いや)
(……知らん)
思考を切る。
「なんで?」
「……別に」
「なんでそんなに引くの?」
(……そういうもんだろ)
言葉にするのも面倒で、そのまま飲み込む。
「……そういうもんだろ」
結局、それだけ出た。
「そういうもんって何」
(……めんどくさい)
「……やる時はやるのに」
「……」
「なのに、普段は引くし」
「よく分かんない」
(……わからん)
どういう事かさっぱりわからん。
いや、
分かりたくないだけか。
「……別に、大したことしてないし」
「知ってる」
「え?」
「失敗も多いし、逃げるし」
「……」
「でも」
ティアは少しだけ言葉を探す。
「やる時は、ちゃんとやるでしょ」
(……それは)
否定しようとして、止まる。
言葉が出ない。
「……なんで、普段はやらないの?」
(……だめだ)
「……別に」
それしか出ない。
「……それ、考えてやってるの?」
(……)
「無理だからやめる、とか」
「損だからやらない、とか」
「……まあ」
曖昧に返す。
「それ、なんか違う」
少し間があく。
「うまく言えないけど」
「最初から、やらない方選んでる感じ」
(……)
胸の奥が、少しだけ引っかかる。
「……そう見えるだけだろ」
小さく返す。
「そうかも」
あっさり引く。
でも
「でも、逃げてるように見える」
(……)
「……」
言葉が出ない。
「……ダサいよ」
小さく落ちる。
足音だけが響く。
「……」
少しだけ視線を逸らす。
「……帰る」
それだけ言って、背を向ける。
歩く。
止まらない。
(……なんだ)
さっきの言葉が、残る。
消えない。
(……うるさい)
考えるのをやめる。
そのまま歩く。
僕は振り返る事ができなかった。




