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「お前らは補習が終わったら、そのまま書庫の掃除だ」
空気が止まった。
小さく、不満が漏れる。
(なんでだよ……)
(めんどくさいって)
(……話せるやつ、いないし)
(またぼっちか)
(帰りたい)
レインは顔を少し引きつらせて、机に突っ伏した。
補習は長く感じた。
内容は簡単。
だから余計にだるい。
(早く終われ)
ぼんやり思いながら、手だけ動かす。
「……終わりだ」
空気が緩む。
「そのまま書庫に行け」
「はぁ……」
誰かがため息をついた。
書庫は薄暗かった。
空気が重い。
「棚の埃を落とせ。本は丁寧に扱えよ」
先生はそれだけ言って出ていく。
(だるい……)
布を持つ。
適当に棚に手を伸ばす。
その時――
コトッ
本が落ちた。
(……ん?)
拾う。
古い。題名は擦れて見えない。
パラ、とめくる。
「外来魔力に適応した個体は――」
(……?)
手が止まる。
もう一度読む。
(……これは)
ページをめくる。
「適応は核の開放と密接に関係する」
(……核、ゲートのことか)
「開放が不完全な場合、生命活動は維持できない」
(……はいはい)
「強い生命反応を取り込むことで――」
(……まぁ)
(効率はいいな)
ページをめくる。
「最終的に、生体としての機能を失い――」
(……)
一瞬だけ止まる。
「完全な****」
読めない。
パタン。
本を閉じた。
(……わからん)
そのまま棚に戻す。
指先に、少しだけ冷たさが残る。
(……)
布を動かす。
もう考えていない。
「……レイン」
(……)
振り返る。
ティアがいた。
(え、なんでいんの?)
(……今はちょっと)
「……あ、どうも」
「……レインはなんで、ここにいるの?」
「補習だよ」
短く返す。
沈黙。
(気まずい)
「……そう」
(よし)
「じゃ、戻るわ」
背を向ける。
(今は無理)
「……レイン、待って」
(……)
止まらない。
(聞こえてない)
そのまま歩く。
数歩。
ふと、
足が、わずかに止まりかけた。
(……)
何も考えないまま、歩き出す。
ティアはその場に残る。
伸ばしかけた手を下ろした。
「……」
小さく息を吐く。
(……逃げた)
その事実だけが残った。




