表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/85

74

英雄コース、2組の教室は、朝からざわついていた。


「……エルフだ」

「本物かよ」

「綺麗すぎるだろ……」


視線が一点に集まる。


教室の前。


そこに立っているのは、銀髪の少女――ティアだった。


透き通るような肌。揺れる長い髪。

ただそこにいるだけで、空気が変わる。


「なんか近寄りづらくね?」

「いや、でも見たいだろ」


ひそひそとした声が広がる。


けれど――


「……騒がしいわね」


小さく呟くだけ。


視線も、空気も、気にしていない。


ただ前を見ている。


その態度が、周囲との距離をはっきりと分けていた。



「……静かにしろ」


低い声が教室に落ちる。


一瞬でざわめきが止まった。


教官が一歩前に出る。


「編入生だ」


短く、それだけ言った。


再び、視線が集まる。


ティアは何も言わない。


ただ、静かにそこにいる。



教室の空気は、完全には落ち着いていなかった。


静かではある。


けれど――


視線が、刺さるように集まっている。


前から。


横から。


後ろから。


隠す気もない視線。


値踏みするような目。


興味、警戒、嫉妬、好奇。


全部が混ざっている。



(……)


ティアは、それを気にしない。


ただ、視線を動かす。


一人一人を見る。


(……思ったより、大したことないわね)


表情、姿勢、重心。


ほんのわずかな癖。


(動きも粗いし、隙も多い)


一瞬で見抜く。


(これが、英雄コース)


わずかに、期待が外れる。



ふと、思う。


(……レインは?)


自然に浮かぶ名前。


当然いるものだと思っていた。


同じ場所に来るものだと、疑いもしなかった。


視線を巡らせる。


けれど――


(……いない)


見知らぬ顔ばかり。


ほんのわずかに、眉が寄る。



「ねぇ」


近くにいた生徒に、声をかける。


「レインって人、知らない?」


「レイン?」


一瞬の間。


次の瞬間――


「あー!剣聖のレイン・グランハルト様ね!!」


迷いなく、そう返ってきた。


「剣術大会で優勝した姿、やばかったよな!」


「神々しかったわ……」


熱のこもった声。


憧れと興奮が混ざっている。


疑いすらない。


けれど――


「違う」


ティアが、短く遮る。


「ただのレイン」


その一言で、空気が止まる。


「……あー」


少し遅れて、理解が回る。


「もしかして、あの模擬戦の?」


「卑怯な手使って勝ったやつか」


「あいつ、雑兵コースだぞ」


さっきまでの熱は消え、


軽い、どうでもいい話のような声に変わる。


「まぁ、あんな戦い方じゃな」


小さな笑いが混ざる。



(……違う)


ティアの中で、はっきりと否定が浮かぶ。


(レインは卑怯なんかじゃない)


ちゃんと見ていた。


レインが勝つために選んだ手を。


(……それに)


引っかかる。


(雑兵コース?)


言葉の意味が、うまく繋がらない。


(どうして?)


(同じじゃないの?)


ほんのわずかに、思考が止まる。


(……なんで、言わなかったの?)


理解できない違和感だけが、残る。



――その頃。


(はぁ……)


レインは、廊下を歩いていた。


足取りは重い。


(なんで補習なんだよ……)


内心でぼやく。


(半分はやっただろ)


(めんどくさい)


小さく息を吐く。


(早く帰ってご飯食べたい)


それが今の一番の本音だった。


補習室へ向かうだけ。


それだけなのに、妙に遠く感じる。



曲がり角を抜けた、その時。


(……あ)


視界の端に、見覚えのある銀色が映る。


(ティア)


一瞬、足が止まりかける。


(……)


ほんのわずかな間。


(……今会うのは気まずい)


理由ははっきりしない。


ただ、なんとなくそう思った。


(……今はいいや)


軽く目を逸らす。


少しだけ姿勢を低くして、


気配を消すように、静かに進路を変える。


(後でいいだろ)


そのまま歩く。


距離が、自然に離れていく。



(……気づかれてないよな)


一瞬だけ、そんなことを思う。


すぐに意識を切り替える。


(補習、だる……)


頭の中は、それでいっぱいだった。



「……」


ティアは、廊下に立っていた。


ほんのわずかに、視線を動かす。


(今の……)


気のせい。


そう思おうとして――


うまく、納得できない。


胸の奥に、引っかかりが残る。


(……レイン?)


確信はない。


でも。


小さく、息を吐く。


「……なんで」


ぽつりと、零れる。


「……いないの?」


その答えは、まだどこにもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ