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扉が開いたまま、数秒。
入ってきたのは、一人の少女。
――セシリア。
「……来ていたのね」
(気まずい気まずい気まずい)
僕は一瞬だけ間を置く。
「……ああ」
短く答える。
視線を少し逸らす。
(なんでいるんだよ……)
セシリアが一歩、近づく。
「無事だったのね」
「まあ、なんとか」
(会話続けるな頼む)
沈黙。
数秒。
セシリアは、少しだけ迷ってから口を開く。
「……あの後、どうしてたの?」
(来たよ)
「……色々です」
短く、少しだけ言い方を整える。
(ここで無礼はまずい。ローガンに嫌われる)
それ以上は広げない。
セシリアは、その返答に少しだけ間を置いた。
「……そう」
それだけ言う。
でも、視線は外れない。
(やめろ見んな)
「怪我は……?」
「ありません」
即答。
(下見てると楽だなー)
少しだけ間が空く。
セシリアが、ほんの少しだけ視線を落とす。
また何か言いかけて――やめる。
――隣で。
ティアが、黙って見ている。
視線だけが、僕に向く。
(分かってる顔すんな)
逸らす。
「……そちらの方は?」
セシリアの視線がティアへ移る。
「ティアよ」
短く名乗る。
一歩も引かない。
セシリアはわずかに目を細めたが、すぐに整える。
「セシリア・ヴァレンティアです」
丁寧に名乗り、軽く一礼する。
その所作に乱れはない。
「……よろしくお願いします」
言葉も、礼儀も完璧。
けれど――
ほんのわずかに、間がある。
ティアはそれを見逃さない。
「ええ」
短く返す。
それ以上は踏み込まない。
空気が、少しだけ張る。
ローガンが口を開く。
「話の途中だ」
空気が締まる。
セシリアは一歩下がる。
「……失礼しました、父上」
静かに言う。
僕は姿勢を正す。
(やべ)
「続けさせていただきます」
声を少しだけ整える。
さっきまでとは違う、きちんとした言い方。
ローガンの前だから。
そのまま前を向く。
(助かった……)
――横で。
セシリアの視線が、一瞬だけこちらに向く。
さっきより、少しだけ長く。
――何かを言いかけて、やめる。
ティアは、黙ったままそれを見ていた。




