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役場に近づくにつれて、人が多くなった。
行商人、旅人、荷馬車。
森の中とは違う、“人間の世界”の空気。
(魔獣が出ないだけ、まだマシか)
横を歩くティアを見る。
フードは被っているが、完全じゃない。
少しでも油断すれば、すぐにバレる。
(時間の問題だな)
その時だった。
「おい、ちょっと待て」
後ろから声がかかる。
振り返ると、三人組の男。
装備は雑。目つきは悪い。
典型的な――ゴロツキ。
「お前フード、外してみろよ」
(え?こんな唐突に?!)
気持ち悪いので無視して通り過ぎようとする。
だが、横から回り込まれる。
「聞こえてんだろ?」
男の一人が、ティアのフードに手をかけた。
その瞬間――
布がずれ、耳が見える。
尖った、エルフの耳。
数秒の沈黙。
そして、
「……は?」
空気が変わった。
「おいおい……マジかよ」
「エルフじゃねぇか」
視線が、一斉にティアに集まる。
値踏みするような目。
「高く売れるぞ」
「こりゃ当たりだな」
ティアは、隠そうとしなかった。
むしろ、正面から睨み返す。
「だったら何よ」
声に、迷いはない。
誇りそのものみたいな態度。
(……ほんと、こういうとこだよな)
男が一歩近づく。
「大人しくしろよ。悪いようにはしねぇからさ」
嘘だ。
見れば分かる。
ティアが動こうとする気配。
その前に、俺が一歩前に出た。
「やめとけ」
低く言う。
男たちの視線が、今度はこっちに向く。
「は?なんだお前」
「関係ねぇだろ」
「関係ある」
一歩、距離を詰める。
「それ、触ったら損するぞ」
「……は?」
空気が一瞬だけ揺れる。
殺気でも威圧でもない。
ただの、“確信”。
男たちは一瞬だけ迷った。
その隙に、俺はティアの腕を引く。
「行くぞ」
「ちょ――」
抵抗する前に、その場を抜ける。
背後で舌打ちが聞こえたが、追ってはこなかった。
しばらく歩いて、人の流れに紛れる。
ようやく足を止めた。
「ちょっと!なによあれ!」
「見たまんまだろ」
「分かってるわよ!」
苛立ったように言い返す。
でも、その奥に――ほんの少しだけ、違う色が混じっていた。
「別に気にしてないわよ」
強がり。
俺は短く返す。
「僕は気にする」
一瞬、間。
ティアの動きが止まる。
「……なによ、それ」
少しだけ声のトーンが落ちる。
僕は肩をすくめた。
「利用する気?」
さっきの視線のまま、聞いてくる。
「違う」
「使うだけだ」
ティアは少しだけ目を細めて、
「……ふーん」
それだけ言って、視線を逸らした。
(……変なやつ)
小さく呟く声は、聞こえないふりをした。
少し歩くと、街が見えてくる。
石壁に囲まれた、人間の領域。
(さて、と)
視線を前に戻す。
(さっきのは、使える)
ティアを見る。
エルフ。差別。さっきの連中。
(……いけるぞ)
それだけ考えて、歩き出す。
(よし、この先は、人の流れに紛れて慎重に進むだけだ。)
ティアは横でフードを少し握り直した。
言葉はないけれど、その姿を確認しながら、僕は歩みを止めなかった。




