65
森を抜けた先。
見えてきた村は――
「……静かすぎない?」
ティアがぽつりと呟く。
「だね」
(なんか、嫌な感じだな)
人の気配はある。
でも、
活気がない。
声が、ない。
村の中に入る。
数人、いる。
けど、
みんな下を向いている。
(……なんだこれ)
「なぁ」
近くにいた男に声をかける。
「ゴートンってどこいる?」
男は顔を上げた。
少しだけ、目を見開く。
「……お前」
「知らないのか?」
(ん?)
「何を?」
少しの沈黙。
「……連れていかれたよ」
「は?」
「領主直属の騎士団だ」
「エルフの件でな」
一瞬、思考が止まる。
(……は?)
「ちょっと待って」
「どういうこと?」
男は苦く笑う。
「そのまんまだよ」
「エルフを攫った件が全部バレた」
ティアの肩が、わずかに動く。
「……グリムだ」
男は吐き捨てるように言う。
(グリム……前に村でエルフ見せびらかしてた奴か)
「あの成金野郎が、エルフを見せびらかしてな」
「騎士団に目ぇ付けられて、捕まって――」
少し間。
「……全部吐いた」
「……」
「“俺だけじゃない”ってな」
「ゴートンの名前も、キラチンの名前も」
(キラチン……)
(まぁ、もういないけど)
「……で?」
「それで終わりじゃないだろ」
「終わるわけねぇだろ」
男は自嘲気味に笑う。
「村ごと調べられた」
「関わってた連中は、ほとんど連れていかれたよ」
「……」
「俺らも尋問は受けた」
「キラチンのことも聞かれた」
一瞬だけ、視線が泳ぐ。
「……あいつは、もう死んじまったからな」
(まぁ、死んだようなもんか)
「騎士団もそう判断したみたいだ」
風が吹く。
やけに冷たい。
男は、ぽつりと呟いた。
「……だから言ったんだ」
少しだけ、声が震える。
「エルフ村なんて、襲うべきじゃなかったって」
沈黙。
「この村は……もうおしまいだ……」
誰も、何も言わない。
静かすぎる村。
「……そう」
ティアが小さく呟く。
その横顔は、いつもより少しだけ固い。
(……いや)
(ちょっと待て)
(じゃあ)
(僕の金、どうなんの?)
一気に現実に引き戻される。
(いやいやいや)
(それどころじゃないのは分かってるけど)
(いやでもそれはそれとして――)
「レイン」
「ん?」
「どうするの?」
少しだけ考える。
(……どうするも何も)
(このままじゃ終わりだろ)
小さく息を吐く。
「決まってる」
「領主のとこ行く」
ティアが少し驚いた顔をする。
「本気?」
「本気」
(このままじゃ、何も回収できないし)
「行くしかないでしょ」
風がまた吹いた。
さっきより、少しだけ強く。
(……めんどくさいことになってきたな)
静まり返った村を背に、
僕たちは歩き出した。




