60
翌朝。
森の空気は澄んでいて、朝日が木々の隙間から差し込んでいた。
レインが軽く体を伸ばしていると、ティアが歩いてきた。
今日はやけに自信ありげな顔をしている。
「お父様に魔法の基礎は教えてもらったわ!」
いきなりそう言った。
レインは「へぇ」と気のない返事をする。
ティアは胸を張った。
「私は魔力量が多いらしいし、結構戦えると思うの!!」
そしてビシッとレインを指差す。
「レイン、相手なさい。腕試しよ!!」
レインは少し眉を上げた。
「そんな簡単に倒せると思われているのは、とても癪だからね」
木剣を一本手に取る。
軽く振ってから構えた。
「コテンパンにしてやるとするか」
ティアはすぐに距離を取った。
そして両手を前に出す。
「火の精霊よ、我が呼び声に応え、敵を焼き払え!」
魔力が集まる。
次の瞬間――
火球が放たれた。
レインはそれを見て思った。
(初級の火魔法なんて、簡単に避けられ……)
一瞬止まる。
(で、デカくね?)
火球は明らかに普通より大きかった。
(えっ、あれ初級のファイヤーボールじゃねーの?)
レインは慌てて横に飛ぼうとした。
しかし焦りすぎた。
足がもつれる。
「うわっ!」
転んだ。
その瞬間――
ゴォォォッ!!
巨大な火球が頭の上をかすめていった。
森の木の幹が一部焦げる。
レインは地面に転がったまま、目を見開いた。
(あぶなっ!!)
急いで立ち上がる。
ティアはすでに次の詠唱に入っていた。
「火の精霊よ――」
レインは考える暇もなく走った。
一直線に。
距離を詰める。
ティアが少し驚く。
「えっ、ちょ――」
レインはそのまま叫んだ。
「うおーーー!!」
勢いのまま木剣を突き出す。
ピタッ。
木剣の先がティアの首元で止まった。
静寂。
ティアが目をぱちぱちさせる。
「……」
数秒後。
ティアは少し悔しそうに笑った。
「んーもう!レインに負けちゃった」
でもすぐに明るい顔になる。
「まぁ、流石はレインね!
早く追いつく為に頑張らなくちゃ!!」
レインは木剣を下ろした。
顔が少し引きつっている。
「ま、まぁ……」
咳払いをする。
「いい感じのところまでは行っていたからねー」
視線を逸らす。
「そんな張り切りすぎなくてもいいんじゃないかなーー」
(あぶねぇぇぇぇ。あれ普通の初級魔法じゃねーだろ……!!)
レインは額の汗をそっと拭いた。
ティアはそんなことに気づかず、やる気満々で言う。
「もう一回やりましょう!」
レインは一瞬だけ空を見上げた。
(……帰りたい)




