57
僕はゴートンに手紙を書いた。
[息子を殺されたくなければ、金を三億ゼニ用意しろ。さもなくば、お前の息子の首を切る。]
と書いておいた。
(なんか、悪い事した奴を懲らしめてるのに、こっちが悪い事してるみたいだ……)
(まぁ、いいや)
この手紙を郵便に出せば終わりだ。
そう思った。
けど――
(ここ、森やん)
(郵便ないやん)
つまり、この手紙を出すには人間の村まで行かなければいけない。
(めんどくさい)
しばらく手紙を見つめる。
そして思った。
(……直接ポストに入れてくればよくない?)
どうせ行くなら同じだ。
郵便より確実だし。
(なんか、まわりくどいけど)
僕が立ち上がると、後ろから声がした。
「どこへ行こうとしてるの?」
ティアだった。
僕は手紙を軽く振って見せる。
「ゴートンの家」
ティアの眉がぴくっと動く。
「……は?」
「手紙届けてくる」
少しの沈黙。
ティアは腕を組んだ。
「なら、私も行きます」
(いや、いらない)
人間の村にエルフが行けば、どう考えても目立つ。
しかもティアはまだ戦えるほど強くない。
(普通に足手まといだな)
僕は少し考えてから言った。
「別にいいけど」
ティアは少し意外そうな顔をした。
僕はそのまま歩き出す。
そして――
族長の家の前で足を止めた。
「族長」
中から族長が出てくる。
「なんだ」
僕は普通に言った。
「ティアお嬢が人間の村に行こうとしてます」
一瞬、空気が止まった。
後ろでティアが固まる。
「は?」
ティアが慌てて口を開く。
「ち、違います!私はただ――」
族長の目が細くなる。
「ティア」
低い声だった。
ティアは姿勢を正した。
「……はい、族長」
「人間の村に行くつもりか」
ティアは少し言葉を詰まらせた。
「……レイン殿が行かれると聞いて、護衛として――」
族長は腕を組んだ。
「必要ない」
「ですが――」
「必要ない」
短く言い切った。
完全に命令だった。
ティアは悔しそうに拳を握る。
「……承知しました」
僕はその隙に村を出た。
森の道を歩きながら思う。
(よし)
(めんどくさいのが一人減った)
半日以上歩いて森を抜けると、人間の村の明かりが見えてきた。
(疲れたーー)
門のところには見張りが立っている。
普通なら、こっそり入るべきなんだろう。
でも僕は普通に歩いていった。
(堂々としてれば、大体気付かれない)
人は怪しい動きをする奴を見る。
逆に普通に歩いている奴は、意外と見ない。
見張りがちらっとこっちを見る。
「……誰だ?」
「ちょっと用事」
僕は適当に答えた。
見張りは少しだけ眉をひそめたが、それ以上は何も言わなかった。
僕はそのまま村の中に入る。
(すばらしい)
夜の村は静かだった。
ところどころの家に灯りがついている。
僕は歩きながら思う。
(さて)
(ゴートンの家はどこだっけ)




