56
弔いが終わり、エルフ達は静かに村へ戻っていった。
森の奥の空気は重く、誰も大きな声を出さない。
レインも黙って歩いていた。
(ふぅ……疲れた)
戦いより、こういう空気の方が疲れる。
村に戻ると、広場の端に例の男が転がされていた。
キラチンだ。
手足を縛られ、顔は腫れ上がっている。それでも目だけはまだギラついていた。
レインの姿を見るなり、キラチンは叫んだ。
「おい!!やっと戻ってきたか!!」
レインは少し足を止める。
「早くこの縄を解け!!僕が誰だか分かってるのか!?僕の父は村長だぞ!!」
レインは頭をかいた。
(まだそれ言うのか)
「知ってるよ」
そう言いながらポケットを探る。
そして、小さな金属板を取り出した。
それを見た瞬間、近くにいたエルフが息を呑む。
族長も気付いたらしい。
「……奴隷紋章か」
レインは軽くうなずいた。
キラチンの顔が一瞬で青くなる。
「ちょっと待て」
「おい」
「それ、何する気だ」
レインは普通に答えた。
「君につけるんだよ」
一瞬、空気が固まった。
次の瞬間、キラチンが叫ぶ。
「ふざけるな!!僕は村長の息子だぞ!!奴隷になるわけないだろ!!」
レインは少し考える。
(うん、やっぱり)
さっきから一つも変わっていない。
「君さ」
レインは屈み込む。
「絶対、あとで仕返しするでしょ」
キラチンは即答した。
「当たり前だ!!覚えてろ!!この亜人共まとめて――」
レインはうなずいた。
(やっぱり、こいつはバカだ。)
そして迷いなく紋章を押し当てる。
キラチンが暴れる。
「やめろーー!触るな、、くそ、レイン!!僕のパパが温情で村に住まわせてやってたってさっき言ったよな?!それに対してこの仕打ちは何だ!パパに言いつけてやる!!」
「うるせーなぁーー」
紋章が光った。
キラチンの体がビクッと震え、そのまま動きが止まる。
レインは手を離した。
「よし、できた」
キラチンは歯を食いしばり、地面を睨みつける。
さっきまでのように暴れることはできない。
族長が腕を組んだ。
「……これで命令には逆らえない」
「はい。僕やエルフに攻撃もできないですね」
族長はレインを見る。
「卑怯だな」
レインは肩をすくめた。
(やっぱり、このジジイは失礼だな)
少し離れた場所で、ティアがその様子を見ていた。
キラチンは地面を睨んだまま震えている。
レインはそれを見下ろして言った。
「じゃあ一応言っとくね」
「エルフ村にはもう近づかないこと。僕にも」
キラチンの口が勝手に動く。
「……わかった」
言った瞬間、顔が絶望で歪んだ。
レインは満足そうにうなずく。
「いい感じだな」
そして立ち上がる。
ふと視線を感じた。
ティアだった。
「こいつどうするの?」
ティアは地面に転がっているキラチンを顎で示す。
レインはちらりとそっちを見た。
「キラチンの親、村長ゴートンに手紙を送るよ。身代金を要求して、金と引き換えにこいつを村に返す」
周りのエルフ達が少しざわついた。
ティアが眉をひそめる。
「……返すの?」
レインは肩をすくめた。
「被害を受けたのはエルフだからねー。別に君たちが気に入らないなら、ここでこいつを殺してもいいけど」
軽い調子で言う。
「僕はどっちでもいい」
ティアはキラチンを見た。
そして少しだけ目を細める。
「……私だって分かってる」
「こいつをここで殺せば、ゴートンに逆恨みされる」
「そうなれば、この村は報復を受ける。仲間が、また被害に遭う」
少しの沈黙。
ティアは小さく息を吐いた。
「……だから、殺さない」
レインは一瞬だけ目を丸くした。
(あの、短気で自分主義のティアが……?)
(理性的だ……!!)
少し感心した顔でティアを見る。
ティアはその視線に気づき、むっとした。
「……なによ」
レインは慌てて目を逸らした。
「いや、別に」
そしてキラチンを軽く足でつつく。
「まぁ、じゃあ決まりだね」
「村長ゴートンに手紙送ろう」




