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ある程度、畑は整えた。
壊された柵や死体の処理はまだ残っているが、手が回らなかった。
それより先に――やるべきことがあった。
戦いで死んだエルフ達の弔いだ。
エルフ村の者たちは全員、森の奥へ向かった。
案内されて辿り着いた場所には、一本の巨大な木が立っていた。
大樹。
そう呼ばれているらしい。
見上げると、枝は空を覆い隠すほど広がっている。
まるで森そのものの中心みたいだった。
その根元に、墓が掘られていた。
戦士たちの遺体が、一人ずつ丁寧に埋められていく。
最後に――ティアが前に出た。
一人目。
「……ラエル=シルヴァン」
二人目。
「フィア=エルネスト」
三人目。
「ルシエル=――」
(長っ)
レインは途中から完全に聞き取れなくなっていた。
エルフの名前は、やたら長い。
ティアは一人一人、名前を呼んでいく。
声は震えていない。
だが、目には少しだけ涙が浮かんでいた。
それでも――真っ直ぐ前を見ている。
レインは黙ってその様子を見ていた。
やがて弔いが終わり、人々が少しずつ散っていく。
その時だった。
族長がレインの横に立った。
「……ティアは、本気で強くなりたいそうだ」
レインは一瞬だけ固まった。
(えっ)
(これって……面倒見ろってこと?)
レインの顔を見て、族長は小さく鼻を鳴らした。
「別に面倒を見ろとまでは言わん。
ティアには魔法の才がある。
剣士ではなく、魔法使いになるのが妥当だろう」
族長は自分の手を見た。
「私は昔の戦いで魔法は使えなくなってしまったが……
魔法を操る感覚くらいは覚えている」
「ティアの指導は、私がする」
そしてレインの方をちらりと見る。
「君には、たまに実戦相手になってもらいたいだけだ」
レインは黙っていた。
族長は少し口元を歪める。
「君のような卑怯な戦士は滅多にいないからね」
(こいつ失礼だな)
族長はレインの方をちらりと見る。
レインは少し考えた。
(面倒くさい。)
正直、かなり面倒くさい。
(なんで僕が温室育ちエルフお嬢様の訓練相手なんだよ……)
だが、ちらりとティアの方を見る。
ティアは大樹の前に立ったまま、まだ墓を見つめていた。
さっきまで涙を浮かべていた目。
それでも、真っ直ぐ前を向いている。
レインは小さく息を吐いた。
「……まぁ」
頭をかきながら言う。
「夏休みの間だけですよ」
族長が少しだけ眉を上げた。
「ほう」
「それ以上は面倒なんで」
レインは肩をすくめる。
族長は小さく笑った。
「十分だ」
そして少し声を低くする。
「ティアにとっては、それで十分だろう」
レインはその意味を深く考えなかった。
だが――
少し離れた場所で。
ティアはその会話を、全部聞いていた。




