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ティアは布で顔を拭いた。
「……余計なお世話」
そう言いながら、そっぽを向く。
周りのエルフ達はまだレインを睨んでいた。
「ほんと信じられない……」
「ティア様を泣かせたくせに……」
「というか、今の鼻水って発言、必要?」
ヒソヒソ声が飛び交う。
(いや、普通に必要だろ)
レインは内心で思ったが、口には出さなかった。
代わりに軽く肩をすくめる。
「まぁ、とりあえず」
レインは村の外の方を指差した。
「まだ後処理残ってるし、僕はそっちやっとくよ」
壊れた柵の向こうには、踏み荒らされた畑が広がっていた。
どうやら戦闘が村の中まで入り込んでいたらしい。
死体もあるし。
戦いの痕跡はまだ残っていた。
エルフ達は顔を見合わせる。
「……」
「……」
そして一人が言った。
「……手伝います」
レインは少し驚いた顔をした。
「え?」
「あなた一人にやらせるわけにはいきません」
別のエルフも頷く。
「それに……」
少しだけ言いづらそうにしながら続けた。
「今回の件は、あなたがいなければもっと酷いことになっていたでしょうから」
レインは頭をかいた。
「別に感謝されるようなことしてないよ」
本心だった。
ただ、やることをやっただけ。
その時だった。
「……私も行く」
ティアが言った。
エルフ達が驚く。
「ティア様!?まだ休んだ方が――」
「大丈夫よ」
ティアは布をたたんでレインに返した。
少しだけ目が合う。
さっきまで泣いていたとは思えないほど、表情は落ち着いていた。
「族長の娘なんだから」
そう言って歩き出す。
レインは少しだけ目を丸くした。
(……強いな、こいつ)
さっきまで泣いていたのに。
もう前を向いている。
レインは小さく息を吐いた。
「じゃあ僕は畑の方やる」
ティアが言う。
「私もそっち行く」
「え?」
レインが振り向く。
「いや、別に一人でいいよ」
「……何よ」
ティアは少しムッとした。
「私がいたら邪魔?」
「そうじゃなくて」
レインは困った顔をした。
「僕、作業雑だから」
「は?」
「怒られるかも」
ティアは数秒黙った。
そして小さく吹き出した。
「……何それ」
さっきまでの空気が、少しだけ軽くなる。
周りのエルフ達は不思議そうにその様子を見ていた。
ティアはレインの横に並ぶ。
「いいわよ別に」
そう言って歩き出した。
「怒るのは私の役目だから」
レインは苦笑した。
(あー……)
(なんか、めんどくさい夏になりそうだ)
けれど。
その予感は――
なぜか少しだけ、悪くなかった。




