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レインはティアのことを考えるのが面倒になっていた。
(……泣かれた理由とか、慰めるとか……
とりあえず、あとで考えよう。)
目の前には拘束されたキラチン。
その背後には、キラチンの父親――あの村長。
(こいつを人質にして、村長から身代金ふんだくったら……
めっちゃ儲かりますねー……)
気付けば、レインの口元はゆっくりと吊り上がっていた。
ニチャ……
「クク……どれくらい取れるかな……
金か、食料か、そもそもこの村長って強気なタイプだっけ……
いやでも、脅せばワンチャン――」
素晴らしい絵顔だった。
その瞬間――。
ガシッ!
族長がレインの肩をつかんだ。
「……おい、人間」
低い声。
怒気を含んだ、聞いた事のないトーン。
レインが顔を上げると、
族長は目を細めて、ズイッ……と顔を近づけてきた。
そして。
「私の娘を泣かせておいて、
何ニヤニヤしてんだ、人間クソ野郎。」
「……いや、違う違う違う違う!?」
レインは慌てて両手を振った。
「べ、別にティアお嬢様のこと考えて笑ってたわけじゃなくて!
ただキラチンの身代金のことを――」
「それを笑いながら考えてる時点で問題だろうが!!」
族長のツッコミが鋭い。
レインは口を半開きにして固まった。
(……あれ? なんか僕、悪役みたいに扱われてない……?)
キラチンは拘束されたまま震えている。
「ふ、ふざけるな……!
お、俺は身代金なんて払わないぞ……!」
レインはキラチンを一瞥する。
「お前は黙ってろ。今それどころじゃないから。」
とりあえず、1発殴った。
キラチンはすぐ黙った。
族長は深いため息をつく。
「……レイン。
まずはティアに謝れとは言わん。
だが、娘が泣いてる時にニヤニヤしてたら、そりゃ言うぞ」
「……いや、マジで誤解なんだって……」
レインは頭をかきながら、うっすらげっそりした顔をした。
(ほんと、あのティアを慰めてた女の子の“薄情です!”っていう誤解から
全部こうなってる気がする……)
族長は机に手を置き、話を切り替える。
「さて。キラチンの処遇だが……
レイン、先ほど“人質にしろ”などと言ったな?」
「え、聞いてたんですか」
「顔に全部書いてあったわ。」
「……え、」
レインは心の中で反省した。
(次からは心の中でも顔の筋肉動かさない訓練しよう)
族長は真面目な声で続けた。
「だが確かに、このままでは村の外も納得せぬ。
キラチンは重大な罪を犯した。
その父親にも責任を取らせねばならん」
レインは姿勢を正した。
「じゃあ……“交渉”します?
俺が、キラチンを連れて、あの村長のところへ」
族長は一拍置き、うなずいた。
「……任せる。ただし――」
「?」
「今すぐじゃない。
まずはティアと話してこい。
あの子は、お前が思っているより繊細だ。」
レインは固まった。
(……え、めっちゃ行きたくない……)
でも、逃げ場はなかった。
族長は、素晴らしく真っ黒な目をしていた。




