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ティアは泣いていた。
けれど僕は――
どう声をかけていいのか、まったく分からなかった。
いや、正確には。
(……なんか、頭が……ズキッと……)
ザバルを倒した瞬間。
あのゲートが、ほんのわずかに“開いた”感覚があった。
身体の内側で何かが変わるような、
熱いような冷たいような、言葉にできない違和感。
そのせいで、ティアの言葉も、少しぼんやりとしか入ってこなかった。
「レイン……ひどい……っ……
わたし、弱いの分かってるのに……!」
ティアの声。
泣き声。
エルフたちの慌てる声。
全部、遠くから聞こえるみたいに揺れていた。
(……やば。これ、適応反応か……?
勘弁してくれよ……今じゃなくていいだろ……)
だから、僕は何も返せなかった。
ただ、少し距離を置くしかなかった。
⸻
すぐにティアの周りへエルフたちが駆け寄る。
「大丈夫ですか!?ティア様!」
「お怪我は!?無事で、本当に……!」
その中の若いエルフの女の子が、チラッと僕を見て小声で言う。
「……泣いてるティア様を置き去りにするなんて……
やっぱり人間は薄情だわ……!」
(…………いや、違うんだけどな……
でも説明できる状況でもないし……)
僕はため息を飲み込み、踵を返しキラチンの方へ向かった。
⸻
キラチンを拘束して族長の家へ連れていく。
途中、キラチンは相変わらず暴言を吐き散らす。
「離せ!!この亜人どもが!!
おいレイン!!
僕のパパが温情でお前を住まわせてやったんだぞ!?
パパに言いつけてやるからな!!」
(まだこの状況でイキれるのすげぇなこいつ)
抵抗して危なかったので、反抗を止めるために軽く数発、拳を入れた。
するとキラチンは鼻をすすりながら黙り込んだ。
⸻
族長の部屋に入ると、重い空気が流れる。
族長はキラチンを一瞥し、深くため息をついた。
「……さて。こいつを、どうすべきか……」
キラチンは青ざめ、震えていた。
ようやく自分の立場を理解したらしい。
僕は壁にもたれかかりながら言う。
「とりあえず、逃げられないようにしておきました。
後は族長さんの判断でいいと思いますよ」
族長は厳しい表情でうなずく。
「こやつの処遇は……慎重に決めねばならん。
村にも説明せねばならんしな」
外ではまだ、ティアの泣き声がかすかに聞こえていた。
(……はぁ……
ザバルを倒して終わりかと思ったら、まだまだ面倒が続くな……)
頭の奥がジン、とまた痛む。
ゲートの影響か。
それとも、ただの疲れか。
今の僕には、判別する余裕もなかった。




